2018/01/14

2018年センター試験について所感

センター試験は、多くの受験生が連れ添って試験会場に向かう姿が微笑ましくも頼もしい。
しかし、だからなんだってんだ、という気持ちが湧いてくるのも例年のことである。
一人ひとりの学生を、その能力を、才能を、意欲を、根性を審査するのであればだぜ、一斉実施のペーパー試験はよろしくない。
理想的には、おのおの大学が独自の審査指針をもって、一人ひとりの入学志願者と直接対峙すべきであろうし、そのような審査指針はありませんなどというのならそんな大学はバカでしょうな。

(なお、昨今の世界経済情勢-政治情勢は、グローバリズムか、はたまた反グローバリズムか、科学技術か資源かカネか、売り手による作動かあるいは買い手による作動なのか…と、洞察要件が多すぎて不鮮明である。
これらの切片について、センター試験の政治経済で何らかの出題がなされるかと期待もしていたのだが、そのような設問はとりたてて目立たなかったのがちょっとがっかりだ。)

ともかくも、政治経済と世界史の出題にて僕なりに特に関心を惹かれた箇所につき、例年どおり所感と若干の私案を交えつつ、以下に記す。

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【政治経済】

<第1問>
問6…データの意義の了察力を問う、なかなかの良問である。
本問にあるローレンツ曲線は、リード文に明示されているように、横軸の人数にせよ縦軸の総所得にせよ少ない方を起点0とおきつつ、それぞれの「累積」と、その全体における「比率」を表している。
さて、ここで気づくべきは、この「累積」はデータの順位付けによるものであり、また、ここでの「比率」は全体におけるシェアであるということ。
だからこそ、選択肢2にある「所得の高い方"から"上位20%"まで"の人々」、あるいは選択肢4にある「所得の低い方"から"80%"まで"の人々」 が考察要件として成り立ち、それぞれ総所得におけるシェアは何%になるかを確認出来る。
なお、選択肢3にある「すべての人の所得が同じ割合で増える…」は、縦軸の「総所得」がスケールアップするが、横軸の「累積人数」のシェアは変わらない。

問9…スマートグリッドはICTによる汎用技術であり、意欲関心のある受験生ならば耳にしたことはあろう。
しかしたとえこの語が初見であったとしても、スマートという語感から見当がつくのではないか。
また、電力自由化が大規模な産業需要向けのみならず、一般家計向けの小売りも併せて実施していること、これは昨今の電力供給の新規事業者参入にて安定供給を必ず保証する云々とともに、是非とも念頭におくべきビジネス動向である。

<第2問>
問2…スミソニアン協定は、ドルショックののち、ドルを切り下げつつも(流動性を図りつつも)ドルを固定相場制に戻すことを前提に合意された。
ここのところ、観念的にどうも分かりにくいとの声も聞かれるが、だからこそ覚えるんだよ。

問3…こりゃぁかなり難しい、終戦直後の経済史だ。
労働組合法が労働三権の基となったことから、時系列としてかなり早いことは分かるが、これが傾斜生産方式とどう関わるか即答できる人はほとんどいないのではないか。
一方で、その傾斜生産方式のためにこそ、日銀引受の復金債が発行され、それでインフレに…というのが教科書ベースでの定説ではあるが、実際にはこの時期のインフレはモノの生産力がまだ貧弱であったためとされる。
なにはともあれ、どうも首の座りの悪い設問である。

問5…IAEAの設立時期を知っている受験生がどれだけいることか。いやしかし、第五福竜丸事件とラッセル=アインシュタイン宣言のあとじゃないかな、と見当をつければよし。

<第3問>
問2…「日本のODAは必ず返済しなければならない」、これが誤文であることをわざわざ念押ししているのは何故だろうか?
それはさておき、フェアトレードは今や、経済系学部のみならずあらゆる学部の英文解釈にて引用されるほどの常識的な(かつ理想的な)ビジネスコンセプトである。

問4…国別の一次エネルギー供給量内訳を記したデータ。
これはセンター試験ごときで通り過ぎてしまうにはあまりにも惜しい、大雑把ながらも実に多くを語る内訳構成表だ。
すぐに気づくのは、天然ガスの構成比がアメリカは大きく中国は小さいこと、ハハン、シェールガスがと想起出来ればよし、それから、アメリカの石炭依存度は意外にも?日本より小さいこと、日本は原子力が実質ゼロであること(?)。
なにより、中国とアメリカの一次エネルギー供給量がグロスでみてケタ違いにデカいこと、彼らは人口も多いからとはいえ、エネルギーのダイナミズムにおける彼我間のただならぬ差異をも想起させてくれる。

<第4問>
問1…これは出来損ないの悪問だ、と察する。
女性の賃金や職種が男性と比べて制限されている由の指摘や、クォーター制による対処云々がいけないと言うつもりはない。
しかし、それぞれの国の政体との因果関係が全く判らない ─ たとえば、議院内閣制と女性優遇/軽視と何のかかわりがあるのか。
※ 昨年もこういうわけのわからない誘導を成す設問があった、2つかそれ以上の設問を強引に折衷したのだろうか、全くけしからん。

問8…衆議院議員の被選挙年齢と参議院議員のそれが異なっている現状は、これまでに最高裁で違憲判決を受けたことがあるだろうか?
これは悩ましい設問で、あれ、そうかもしれないぞ、と考え始めると疑心暗鬼にも陥ってしまう。
だが本設問の主旨はおそらく別におかれており、そもそも「これまでの最高裁による違憲判決事例をどのくらい知っているか」、ここのところだろう。

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【世界史A】

<第1問>
問1…難問である。露土戦争の結果、ベルリン会議にて旧ユーゴスラヴィアのセルビアとモンテネグロが独立承認されたことはすぐに思い当たるが、ルーマニアまでは想起しにくいのではないか。

問2…「大陸会議」 のような漠然とした用語には要注意、世界史一般にはアメリカ独立戦争(宣言)直前に結成された州間の連携体である。むろん、連邦制以前である。

問5…これは多くを連想させる良問だ。
沖縄の日本復帰と、ニクソン訪中、日中国交正常化はいずれもヴェトナム戦争終結前のこと。だが、日中平和友好条約はヴェトナム戦争終結後(78年)である。
さらに、米中の国交正常化はじつは日中よりも遅い。

問8…古代~近代のユーラシア遊牧民の版図は、イラン方面、西トルキスタン、東トルキスタン、モンゴル~チベット方面、と分けて整理すれば覚えやすい。
(こういう地理勘をもたずに移動経路をぐちゃぐちゃと書く学生も先生もよろしくない。)

<第2問>
問3…これこそ世界史Aならでは、経済産業史を俯瞰させるかなりの良問であり、何と言っても資料がすばらしく、入試問題に留めておくにはあまりにも惜しい。
アメリカ合衆国の金(gold)生産量と中国人移民者(流入者)数 ─ いかにも正の相関が高いとの先入観を抱きがちだが、じっさいにここで呈されたグラフによれば、両者間でほとんど相関関係が見られない。
ここまで一瞥した上でいよいよ歴史の勉強だ。カリフォルニアでゴールドラッシュが始まったのは南北戦争の前のこと、一方で大陸横断鉄道が西海岸に至ったのは南北戦争終結後だ。
そして、中国人移民が増え始めたきっかけは大陸横断鉄道の敷設工事における苦力労働であり、この時代以降から中国人移民が激増していった…
(そんなところまでは設問対象にはなっていない、というかもしれないが、そんなところまで想起させるのが本問資料の醍醐味なのである。)

<第3問>
問2…「オーストリア帝国」との呼称が、また漠然としている。
しかし、仮にこれがハプスブルク帝国のことだと解釈しても、オットー1世戴冠に始まる神聖ローマ帝国とは完全には一致しない。

問7…ここでの上海クーデタは、蒋介石が共産主義勢力を駆逐して、南京の国民政府を樹立するきっかけ。この国民政府が中華民国を建てた。
なお、エリツィンの際立った政治活動はほとんどがソ連解体後のロシアにてなされている。

<第4問>
問3…オバマによる核廃絶の演説が、アメリカとしてロシアを牽制する意図があったことは明らか。だが、この演説がワルシャワにおけるものだったか、いや、プラハだったかな、と連想するのは難しい、なぜならどちらの都市もソ連(とりわけロシア)の支配を受け続けてきた経緯があり、それ以上の連想の決め手が世界史学習では出てこないからである。
※ そもそも、歴史は現在も新たに作られ続けており、だから連想や先入観にまかせず、ともかく頭に入れるべきである。現代史の重要性もここにある。

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【世界史B】

<第1問>
問3…アドリアノープルは、オスマン帝国がビザンツ帝国から奪い、初期の首都とした都市。のちにメフメト2世がコンスタンチノープルをも奪い、そこに遷都した。
なお、本問の選択肢④は論理的に曖昧過ぎる。ローマ帝国ののちにイェルサレムを占領した勢力は、第一回十字軍のみには特定出来ないではないか。

問8…「湖広熟すれば天下足る」 は、一般に長江の「中流域」
における、明代の大穀倉地帯を称賛した表現とされている。
宋代までは、大規模な農地開拓は長江の「下流域」に留まっていた。
これは地理学の勉強にもつながる重要なスタディ対象である。

<第2問>
問2…インド文明における最初の統一拠点は、いかにもインダス川からイラン(アーリア)方面のようだなぁ、という安易な先入観を吹っ飛ばす良問である。
ことにインドや中国など複合的かつ多元的な地域史は、地図をよく確かめながら地政学的センスを磨き上げなければならない ─ むしろそういう出題をこんご更に期待したい、世界史Bよりも世界史Aとして。

問6…ウォルポールに始まる責任内閣制は、名誉革命で迎え入れたハノーヴァー朝にて、国王を政治から遠ざけつつ立法と行政をともに機能させんと図ってきた仕組みである。

問7…ワッハーブ王国の端緒は意外に古く、18C半ばのこと、アラブ民族主義のルーツともなり、現サウジアラビアの遠き礎でもある。

問8…イランのカージャール朝とパフレヴィー朝あたりは、どうも世界史学習の盲点となり易い。イラン(ペルシア)は他地域と連動するよりも独自に動くケースが多いので、アラブ世界以上に留意すべきである。

<第3問>
問3…審査法は、スチュワート王家(カトリック)の圧政に対して、英国国教会員の多い議会が制定した宗教上の制約。こののちに名誉革命である。
審査法については、むしろ、いつ廃止されたか、それは何故かを理解すべきである。

問6…第二次大戦時のアメリカ合衆国による武器貸与法は、当時の連合国側に対してのもの。よって、選択肢②に記された「ソ連に対して」の表現も間違いではない。

問8…王安石の新法は、選択肢②にあるとおり地主や大商人の利益を抑えようとしたもの ─ ではあるが、その目的こそがむしろ重要で、農工業の生産力強化および国防力強化を図るべく、カネの再分配を図った政策であり、さらにその顛末も理解すべきである。

問9…これは奇問あるいは悪問ではないか。
1895年~1925年のイギリス、日本、アメリカ合衆国による、対中貿易の「額面」推移比較だが、この「額面」での比較にいかなる意義があるのかどうも分からない。
英ポンドと日本円とアメリカドルの為替相場はどうであったのか、1925年以前であればイギリスは金本位制であったとして、それでは清および中国との為替レートはどうであったか…ここいらをすっ飛ばしての「額面」比較が何を意味するのだろうか?
むしろ、清および中国に向けた「出荷品目」をベースに、各国間の推移比較をすべきではなかったか、それならば世界史Aでも起用出来るような立体的な考察対象になりえたであろう (額面引用の意義もそこにあるはずだ)。

※ ところで、この<第3問>のリード文Bにて、ドレスデンとともに引用されているイギリスの小都市コヴェントリーの名は、第二次大戦時における軍事戦略と科学技術と人道主義の悲劇的な矛盾を象徴するものである。学校の勉強におさまらない重大な一幕だ。


以上

謝辞

ここに提示の記事は、いずれも私自身の判断責任のもと編集・投稿したものです。

大半の投稿は学生など若年層向けを意図してやや平易な表現にて、通俗性は極力回避しつつ、論旨の明示性を重視しつつ書き綴りました。あわせてまた、社会人の皆様にお読み頂くことも想定しつつ、汎用性高い観念知識を相応に動員しながら記した積もりです。

私なりの思考着想によるささやかな閃きが、皆様の諸活動にて何らかの光源たり得れば、望外の喜びであります。

山本