2014/01/25

【読書メモ】 離散数学「数え上げ理論」

僕は電機メーカの在籍時に、業務自動化システムの拡販営業に携わった時期が比較的長く、大まかな論理データモデルやLCMP・TCMPレベルでのシステム構成なども描いてきたわけだが、それらの経緯において(簡単な)漸化式や確率論なども適宜習得した次第であった。 
更に立ち返れば、高校時代の数学においても、集合や確率だけはちゃんと勉強したので、それらの素養については並レベルの理系学生よりは有るつもり。
(一応断っておくが、温度湿度や重量体積などハードウェア技術はあまり分からない、というのもそういう縁があまり無かったため。もちろん発電システムの基本的構成くらいは分かるけどね。)

とはいえ ─ 以前にここに「数学が嫌い」な所以についてのやや砕けたコラムを載せたこともある。
そこでは、人間のごく直観的な(或いは漸化的な)思念と、それらが凝縮され閉じられた特定の公式と、この「両者の橋渡し」が現代では軽視され過ぎているのではないか、という不満について書いてみた。
さてその「両者の橋渡し」について、単純明瞭にかつ段階的に明示した解説書はどこかに無いものか、数学全般についての分厚いテキストでなくてもよい、僕でも分かる程度の集合論や確率論等について書かれていればよい、と、時おり書店で探していたのだが…

あった!これだ!この本は解り易い、と中をバッと開いてほんの3ページほど読み進めただけで従来の不満がどんどん氷解していく…たちまち納得して昨年末に購入したのが本書。
『離散数学「数え上げ理論」』 - 講談社BLUE BACKS刊、野崎昭弘・著。

2008年初版のようだが、数学基礎についての解説書ゆえ時節はほとんど問われないだろう。
なんといっても本書はほぼ一貫して、諸要素の「対応」の基本観念を足元に据えており、きっと誰もがおのれのペースで歩調乱さず追随出来ようそこから事象の発生数や再配分の可能性の検証まで、思考の遠足が始まっていく。
むろん、本書は後半以降がなかなか難しく、最後まで精緻に読み切るのはキツイ、数学通でない僕などはなおさらついていけない ─ しかし本書は問題設定が絶妙に巧く、普遍的かつ拡張的な問題(むしろ論題か)をたたき台に据えつつ論理展開がなされるところ、実に誠実な構成だ。
因みに、これは偶然だが、著者の野崎氏が1970年代に著された傑作「詭弁論理学」が僕の実家に有って、まだ学生だった頃(?)の僕がかなり以前に拝読した折にも、平易にして発展的な論旨にまこと感心させられたものであった。

よって、本書につき以下に【読書メモ】としてまとめおく。
尤も、本書は着想方法において学ぶところ大きかった反面、具体的な数式引用や転記はいちいち面倒かつ軽微な誤記すらも許容されないので、今回の【読書メモは】僕なりのごくごく簡素な再解釈と所感に絞り、以下に記すことする。



・本書はまず導入部にて、順列や組み合わせの初歩的な問題、ここでは「友人へプレゼントを配る方法」の計数についての模索から始まる。
或る実在と別の実在の関係付けとその計数はいわば人間の基本的な能力であるそうで、暫らくは中学高校の数学で学ぶ順列・組み合わせのおさらいが続く、が、そこのところ欠伸を我慢しつつ一歩一歩ゆっくり読み進めていけば…。

なんと、有名な論理パズルの問題、つまり「トーナメント戦の最小試合数(引き分けナシ)を計数する方法」も導いてくれる ─ つまり、「試合数」と「負けたチームの数」が1:1で対応しているので、チーム数の総計さえ分かれば試合数もすぐ分かるというもの。
さらに、あみだくじにおける例で、或るグループAと別のグループBの要素が互いに 1:1 で漏れなく対応している場合、「逆対応」が成立する由であることを明示している。

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・さて次の例題は、本書購入を思い立ったきっかけの一つでもある。
『同じ箱入りチョコレート6つを、4人の友人に配る。全ての箱を配るものとし、1人に何箱渡してもよい、また一つも貰えない友人がいてもよい。この場合に箱の配り方は何通りあるか?』

なーんだ、こんなの高校の数学の初歩じゃないか、バカにすんな俺は数学の偏差値が70以上だったんだぞ…と咄嗟に声を挙げたくなる学生も多いだろう。
なるほど学校で数学をちゃんと勉強した子なら、「配られる箱の実数が無い」という情報とは別に、「数える対象ではない│という暫定記号」をも併せて用いれば、すべての対応を過不足無く計数出来る…とすぐ思い出す。
たとえばAさんに1箱、Bさんには無し、Cさんには3箱、Dさんに2箱なら、
●│無│●●●│●● と記せばよい、だから答は6+3つまり全体で9個のうちにおける3個の│の組み合わせ 9C3=84通りだ、と。

むろんそれでよいが ─ しかし僕はこの区切りの│について丁寧に読み返していて、咄嗟に思い当たっことがある。
かつて僕が販売担当していた或る自動計数機においては、「存在情報そのものを無視する」と仮定した所謂ダミーカードを敢えて計数させ、それで寧ろ計数ミスを無くして全体の整合性を図っていたもの、これはきっと今でも採用されているロジックであろうが ─ つまりはこのダミーカードの智慧を本書であらためて実感した次第であった。
つくづく、数学は解放パターンの暗記「のみ」では実感出来ぬもの。

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・分割数の概説は、とりわけ面白かった。
この箇所、僕なりの汎用表現では纏めらそうもないのでちょっとだけ具体的に引用。

m個の同じ品物をn個の同じ袋に分ける、ただし空袋は許さない、その「組み合わせ」の方法を p(m,n)  と記す。
では p(8,4) の場合に、全部で組み合わせは何通りあるか。
とりあえず、まずは4個の品物を4個の袋に入れる場合、これつまり p(4,4) で 1+1+1+1 となり、組み合わせはこれ一つのみ、となる。
それに加えて」、「残りの4個の品物」の配分組み合わせについて考えると ─ p(4,4) はつまり上と同じく組み合わせ1つ、p(4,3) では3+2+2+1 しかないので組み合わせ一つ、ただし p(4,2) では 4+2+2+1 および 3+3+3+1 と組み合わせは二つ有り、しかし p(4,1) では 5+1+1+1 で組み合わせ一つ、…組み合わせは全部で5通り。
あらためて p(8,4) の組み合わせ数をまとめると、とりあえず最初に袋に入れた p(4,4) は除き、「残り4個の品物と4袋の組み合わせ数」の合計となるので、これをひっくるめた式は p(8,4) = p( (8-4), 4) + p( (8-4), 3) + p( (8-4), 2) + p( (8-4), 1) となる。
だがここで、p( (8-4), 3) は更に計算すすめて p( ( (8-4) -3), 3) + p( ( (8-4) -3) ,2) + p( ( (8-4) -3), 1 )と分けていくことが出来、同様に p( (8-4), 2) は
p( ( (8-4) -2), 2) + p( ( (8-4) -2), 1) へと分けられる。

こうして、m個の同じものを幾つかに分ける組み合わせ方法を突き詰め、それを最大mまで漸化式で表すと p(m) = p(m,1) + p(m,2) + p(m,3)p(m,m) となる。
この p(m) を分割数と称すが、完結的に閉じた方式はないという。

なお本書では上に続けて、特定条件付きの分割数について論旨展開、その過程でオイラーの定理が紹介されているが、ここではこれを整数の分割を突き詰めた証明例を紹介している。
(或る数の奇数ずつへの分割数と、異なる数への分割数、それらが漏れなく対応しているとして)。

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・フィボナッチの数について。
本書では複利計算の引用例から入り、フィボナッチ数の増加例としてよく知られた自然界での発現例のほか、階段の登り方(何通りありうるか)や、タイルの埋め方の問題などが例示されている。

が、それより面白いのはカタラン数の紹介。
パスカルの三角形に則った道順計数の図において、→の進路選択数を↓の進路選択数が絶対に超えないように設定し、その特定の道順記法がカタラン数であるとまず説明している。
このカタラン数の応用紹介例として抜群に面白いのが、「文章における文節の合成可能な場合数」についての概説。
或る文章の文節ひとつずつ、n角形におけるn-1の辺にまず対応させ、そのn角形を三角形に分割する方法数こそが、もとの文章の文節合成の場合数にきっちり対応していることを示す。

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…以上まで昨年末にほとんど一気に読み抜いて、そこでさすがにバテた。
そこで本書はしばらく寝かせておき、昨日からあらためて続きを読もうとした、が、集合論と包除原理、さらに差分方程式、母関数、チェスのクイーンの配置問題となると、もう僕には未知の素養、領域だ。
よもや学生じゃあるまいし ─ 未知で未体験の論理をスイスイ捕捉し吸収するバカ正直な謙虚さも減衰してきたようなので、とりあえずこのへんで。


以上

2014/01/19

2014年センター試験についての所感

① 早くもセンター試験の日が巡ってきた。
大仰に言えば多くの学生にとっていわば通過儀礼の一種、そうして次々と新次元に挑んでいく子たちを見届け続けてきた以上、僕としてはなんだか妙に感傷的な時節到来でもある。

思えば、今年度の高3生たちは阪神淡路大震災の年に生まれ、東日本大震災の年に高校入学、と、どこか奇矯な星回り、ちょっと気にかかったり。
そういえば、昨年度の高3生はどこかズカーンと突き抜けたような生意気な天才タイプが目立ったが、今年度の高3生は概して実直な努力型が多いように見受けられ、なおさら捨て置けない。
更に僕なりにやや偶然の縁も有り ─ とまれ、今年度の高3生に対しては例年以上に思い入れが大であること、とりあえず白状しておく。

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② しかしながら。
まともに考えれば、大学受験のためのセンター試験など「ほとんど」意義が無い。
その理由を僕なりに記す。

(1) 学生の知力の絶対値を測る尺度など設定しようがない 
(何らかの知力が傑出している子でもその才覚はえてして凸凹しており、規定の勉強学力がトータルに高いとは限らない)
→ しかしセンター試験では知力絶対値=学力絶対値の存在が前提となっている

(2) 一方で、おのおの大学に知的特性が在る以上は、望ましい学生の知的特性も大学別にそれぞれ異なるはずである
→  だがセンター試験では各大学側の知的特性を個別には反映していない

(2)' (2)を確認するためには、大学と入学志望者の両者間における直接かつ双方向の対話が必須であるはず
→ だがセンター試験が介在する以上は、これらは実現出来ない

…にも拘らず、センター試験の実施が必然であるとされるのなら、その理由はセンター試験が大学受験のためにあらず、高校履修内容の習熟度の確認手段に留まるためではないか。
であれば、5年後(?)に一斉導入されるかもしれない高校履修内容の習熟度テストと何が違うのか?
しかし、おのおの独自の知的特性に則っている大学側が、高校学習の習熟度をもって学生評価の基準に据え置いている現状は、間違っている。
個々の大学の知的特性に合致した推薦入試制度の方が遥かに合理的だ。

なるほど、高校の履修課程が来年度からちょっぴり増補されることになっており、だから現行課程のうちにとっとと大学に引っかかりたい、という声も頻繁に耳にしてきた。
だから?

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③ さて、例年のとおり社会科の出題に注目してみる。
今回はとくに政経科が面白かった。

第1問。
問5は、「通貨当局」が日本かアメリカか瞬時戸惑うものの、日本経済の記述との前提に立てば、ああこれは日本の通貨当局の平価変動幅の制限のことだと閃くはず。
続く問6は、過去25年間の中長期スパンにおける「経常収支の変動内訳」がちょっと面白いが、どうもイヤミな問題だなあとの印象も残ったもの。
軒並み黒字を計上し続けてきた所得収支(つまり海外投資収益など)を当てさせる問題で、ほら、日本はカネの海外運用リターン「だけ」はどんどん黒字基調にあるのですよ、か、そこんところ思い出せばたちまち正解。
だけど本当はね、増えたり減ったり変動激しくここ数年でガンガンと落ち込んだ貿易収支、そして、やはりややでっこみひっこみでマイナス基調のサービス収支、と、この両者の戦略的な要因こそが日本経済論のコアでありノウハウなんだけどね。
なお、「経常収支」を大雑把に換言すれば、「すでに為された取引・或いはすでに課された義務における『損得金額』」を表し、かつ、本問には出てこなかったが「資本収支」は「これからの取引成果を期待して『とりあえず出しておくカネの損得』を表している ─ とりあえずこういう具合に抑えておけば大間違いはしないだろう。

次に、第2問。
問6は年間総実労働時間で、日本はドイツやフランスよりも長いのですよと納得させる主旨なのだろう(しかしアメリカとはほぼ同時間である)。
なお、残業も待機時間も全部ひっくるめた実労働時間と、法定労働時間の違いについて、ちゃんと教育しているのかどうか常々疑問ではある。

さらに、第4問。
問1は、皇位継承が男系男子に限られているなどとは憲法には明文化されていないよ、と念押しする意図があるのだろうか。

問3がなかなかトリッキーで面白い。
これは出題文はじめの「定員が5人」が小選挙区ア~オそれぞれの定員を指すのか合計をさすのか解りにくい、が文面はそれぞれの小選挙区で各政党「それぞれ1人の候補者」と続く。
さて、この条件下でア~オの小選挙区が合併したら、5つの議席を争う単一選挙区において得票数が計500となり(つまりこの合併選挙区はもはや小選挙区ではない!)、ここで得票数を極めて単純に議席に按分するのだからA党から2人、B党からも2人、C党でさえも1人が議席確保となる。
(比例代表区におけるドント式議席配分など咄嗟にかられて、全貌を見失わなかったかどうか。)

第5問。
問1、これは実に素晴らしい問題、まさに社会科の着想そのものを問うもの。
ほとんどの諸国・諸地域間においても、それら経済活動の利害一致があり、それで共通化統合があってこそ、おって政治的な統合もありうるわけで、逆など普通はあるわけがない(あるとしたら共産主義勢力による侵略活動と統制経済政策だけ。) 

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世界史Bについては、例年同様にまたハングル関係についての曖昧な出題が為されたのかしら…と、やや訝しげにパラパラ眺めてみたら。

第1問の問6、琉球は明に朝貢したとあり、これは間違いではないが、まともなセンスで出題するのなら「明と薩摩への両属体制をとった」として欲しかった。
第3問の問6は現代史からの重要な出題で、ニュルンベルグ国際軍事裁判は分割占領下でのドイツでなされたこと、つまり、NATO結成~東西ドイツおのおの独立よりも以前であったこと、是非思い返して欲しいところ。
問7では中ソ国境紛争の後にアメリカが中共訪問であるところ、勘違いせぬよう。
とくに、ヴェトナム戦争と中共の文化大革命が既に進行しているところでの、中ソ国境紛争であったこと、つまり中共の対外的な動きを是非とも総括しておきたい。

以上


2014/01/13

新成人 2014



新成人の皆さん、おめでとう。
これまでの皆さんは、大人たちが書いた何冊もの本、たとえばご親族の道徳訓や学校の教科書などを頭の上に乗っけて、それで懸命に大人たちと背比べしてきた ─ かもしれないが、これからは違う。
もう背比べなんか、せずともよろしい。
むしろ、皆さん一人ひとりが本になっていく。

ものすごく文学的に喩えれば。
人生のステージに大小きらめく星座群を一つひとつ精緻に描き綴りながら、更にページを継ぎ足していく、そんな図鑑のような存在になっているかもしれない。
或いは、あらゆる知識経験を幾何学的に紡ぎ合わせ編み合わせた、壮大かつ深淵な絵画のタペストリーとなっている、かもしれない。
さらには、ハラハラドキドキ海へ山へと駆け巡るシンドバッドやガリヴァーのごとき冒険譚となっている、かもしれない。
そういうのがいやなら、誰かに頼み込んで、装丁ばかり立派な作品に製本してもらってもよい、かもしれない。

皆さん一人ひとりが決めていくこと。

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さて。
我々日本人には(と、いうか仏教圏には?)、不思議な信仰が根付いている。
世の中においておのれの為したあらゆる行い、その因果は、回りまわっていつか自身に返ってくる、という。 
「いつか、しっぺ返しをくうよ」と。

これは、ぐんと大局的に捉えれば真理のようにも聞こえるが、でも具体的に考えるとおかしい。
だって、化学物理の現実に則って何もかも変化し続け、それらの変化から生命や工業製品が暫定的に生成され続け、そして一人一人が別々の損得で市場経済に勤しみ続ける過程で ─ 或る個人の特定の所作がその本人に「そのままの形で返ってくる可能性は極めて小さい」。

大人の社会常識に鑑みれば、あなたが為すこと、為したことは、ほとんど再現も復元もされません
…いやむしろ、全く異なった、しばしば予期せぬ形において、何らかの別種のリターンがある、かもしれません、と言うべきか。
それが、「しっぺ返し」の真意なのだろう ─ そして成人するとはそういう世界の一員となること。

そんな「大人の現実世界」へのデビューだ、襟元を正せ、されど萎縮するなかれ。

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さらに言っておきたいこと。

やがて皆さんの多くは、至るところで「価値」だの「機会」だのという言葉にイヤっていうほど接することになるだろう。
あなたは大人なんだろう、じゃあこれらの意味も分かるだろう、などと強く説かれると、ああ、おお、ええ?…と狼狽してしまうこともあろう。
しかし、これらの言葉には厳密な意味など無い、だからいちいち悩む必要なし。

たとえば「価値」だが、これは新規開発した製品サービスのことでもあり、事業規模のことでもあり、おのれの利益のことでもあり、売買当事者の幸福感のことでもある。
それらの意味を巧妙にすり替えてカチカチ、カチカチとうるさい大人たちも居る、さらに全部ひっくるめてビジネスヴァリューなどと訳の分からないコンセプトを説くアホも居る ─ いちいちマジメに聞かずともよろしい。

さらに、「機会」という言葉も厳密な定義など無いぞ。
自分が何かを求めても一つの機会、何かを与えても一つの機会、合意も一つの機会、ケンカも一つの機会、サボタージュも一つの機会、和解も一つの機会…何をやってもその行為自体を一つの機会としてカウンタブル。
よって、ビジネスチャンスという言葉も全く曖昧そのもの、いちいち真剣に聞かなくともよい。

言葉あそびに幻惑されず、「いったい何が起こっている」のか、「何をすべき」なのか、そこんところに徹底的に拘ろう。
「誰が仕切っているのか」は、あとまわしでよろしい、だって、全ての「価値」や「機会」を仕切れる人間なんかどうせ居やしないんだから。

以上

2014/01/09

愛の新卒採用


「次のかた、どうぞ!」
「はい…失礼致します。はじめまして」
「はい、どうぞ、お座り下さい」
「えー、私は、××大学の○○と申します」
「え、なんですか?」 
「○○と申します」
「はいはい」
「本日は、是非とも御社にご採用頂きたく、こうして面接にお伺い致しました、みたいな」
「え?なんですって?」
「本日は、御社にご採用頂きたく、みたいな」
「ははぁ…あの、失礼だけどね、あなた、男子学生なんだからさ、もうちょっと腹の座った大きな声で話してもらえないかな」
「す、すみません、じゃなくてー、えーと、申し訳ありません、御座いませんっす!」


「うん…まあいいや、では、当社への志望動機について、簡潔にどうぞ
「おーっと、まず志望動機ですか?いきなりそう来ますか…あのですね、私は是非とも御社で活躍したいと考えております、みたいな」
「…どうもあなたの声は聞き取りにくいなぁ。で、うちでどのように活躍したいと考えているのかな?」
「それはー、働いてみなければ分からないと思いますけどぅ…みたいな」
「ははは、そりゃそうだ、でもね、真面目な話、うちで取り組んでみたい仕事について挙げてくれないかな?」
「ハァ…そのぅ、私は御社でとりあえずは営業の仕事に就きたいと考えておりますけどぅ…みたいな」
「とりあえず営業って、それは要らないねぇ。うちはそういうのがウジャウジャ余ってて、処分に困ってるくらいだから。他には?」
「あのぅ…そしたらですね!こういうのは如何でしょうか?実は、私の叔父が自動車部品のメーカで品質管理をしておりまして…みたいな」
「ほお?僕だって品質管理への興味は有るよ。で?」
「あのぅ、そのぅ、私が御社で品質管理の仕事に就いたら、ですね、叔父と相談しながら効率よく仕事が出来る、かもしれない、みたいな」
「どうして?うちの製品の品質管理とあなたの叔父さまと、何の関係があるの?え?」
「…すいません、何も有りませんね、ははは」
「なに?なんだって?!」
「すみませんっす、あ、いや、申し訳御座いません、確かに私の叔父と御社は、いや、御社と私の叔父は、何ら関係は御座いませんで御座いますですね」
「うーん…それじゃ話にならないんだよなぁ。あのね、僕だってうちの人事の看板背負って、こうして面接しているわけ。だからね、志望動機の曖昧な学生を積極評価して書類回すわけにはいかないんだよね」
「すみませんっす、あ、いや、申し訳御座いません」
「だいたい、あんたね、ハードを扱いたいわけ?それともソフトに関わりたいわけ?そのあたり、どっちを指向してんの?」
「…どっちが、よろしいのでしょうか?」
「なに?!なんだって?!どうもあんたの声は聞こえないよ!」
「えーと、えーと、ですね、私はハード製品とソフトウェア関係と、どちらがふさわしい人間だということになりますでしょうか?」
「それをこっちが訊いてんだよ!」
「あのぅ、よく分からないんですケド…みたいな」
「あんたね、その『…みたいな』っていうの、やめてくんないかな。真面目に考えてる?…で、他には、何か志望動機は無いの?」
「えーと、んーーと、あのぅ…ああ思い出した!実はですね!私の先輩が御社にご採用頂いており、今は確か、総務関係のお仕事に…」
「ほぅ。で?」
「それで、たとえ総務であろうが人事勤労であろうが、身を粉にして働いておりますこの先輩に対し、私は大いに敬意を払っておりまして」
「あ?なんだ?総務や人事勤労で悪かったな、おい!あんた、もうちょっとまともに考えて話すようにしなよ、ね」
「……ああ、全く仰せのとおりで、えぇ、えぇ……」



「……まあ、いいや。じゃあ、何か他人に負けない特技が有ったら、客観的に挙げてみてくれないかな」
「よーし!それでは申し上げます!えー、履歴書に記載致しました通り、私は学生時代にIT関係の資格取得に励んで参りました。その努力と経験については自負があります」
「ふーん」
「あとはー、会計についても勉強中です、その努力と経験についても自負があります」
「へぇー」 
「それからー、宅建の資格についても、勉強し始めたところで、その努力と経験も…」
「ほぅ」
「あとはー、えーと、あのー、えー、ゼミの顧問教授から推薦文も頂いておりましてー」
「あっ、そぅ」
「今ここでー、それをお読み申し上げましょうか?」
「いや、今はいいよ、あとでこちらで目を通す、かもしれないからさ」
「なるほどなるほど、えぇ、えぇ」
「で、他に、なにか有るの?」
「あの、ホームステイの経験がー。ええと、一応、ロサンゼルスに」
「ははは、あんたね、よく欧米で生活出来たね、そんな貧弱な声で」
「でも、しかしですね、アハン…英語にはちょっと自信がありますから…ウフン…オーイェア」
「…他には?」
「はぁ?……あのぅ、特に無いですね」
「えっ!?なんだって?よく聞こえない!」
「あの、他にはこれといって御座いませんところで御座いますです、えぇ!えぇ!」 
「…あのねぇ、あんたさぁ、ITや会計をちょっとかじったくらいで、特技のうちに入ると考えてるの?」
「いえ、はい、いえ、はい、滅相もございません、はい、はい」
「いいかい?あんたの前に面接した学生はね、東京都の地下鉄の最適な結線図を独力で考案して持ってきたんだよ。それにね、その前に面接した女子は、イルカの言語の研究で独創的な論文を書いたんだよ」
「なるほど、なるほど、えぇ、えぇ」
「それから、衆議院の比例代表制について新しいアイデアを持ってきた学生も居た。ねえ、そういうのを特技と言うんだよ」
「なるほどなるほど…それは、そうですね、はい、そのとおりですね、えぇ、えぇ」
「あんたはさ、ITとかホームステイとか、全然アピールが無いんだよね。いいかい?うちには専門的な外国人従業員がいっぱいいるわけ、ね。あんた、そういう連中と自分がまともに張り合えると思う?」
「なるほどなるほど、それは無理ですね、無理ですとも、えぇ、えぇ」
「よし、分かった!これといって特技は無し、と」
「なるほどなるほど、全く仰せのとおりで、えぇ、えぇ…」
「じゃあ他にアピールしたいことは?」
「はい!私はこう見えても協調性があります。他人と協力することもやぶさかでは御座いません、えぇ、えぇ」
「協調性ってなんだ?他人と同じことする奴は、うちは採らないよ、どこだって採らないよそんな人材。そんな奴、無駄。企業の成長には全く貢献しないの、分かる?」
「なるほどなるほど、仰せのとおりで、えぇ、えぇ」
「他には?」
「あ、はいはい、はいです!私はですね、個性も有りましてですね!えぇ!えぇ!」
「どんな?」
「他人と違うことを考えることが出来まして、ですね。えぇ、えぇ!」
「あんたさぁ…そんなの当たり前だろう。誰だって他人と違うことを考えてるんだよ。だから市場経済が成立するの、分かる?みんなが同じことを考えていたら人間は集団絶滅しちゃうだろう。はい、他には?」
「……残念ながら、今のところは、これといって御座いません、えぇ、えぇ」



「やれ、やれ、しょうがねぇな、こりゃあ…。それじゃあ、何かうちに対して質問は?」
「ハイハイ!えーと、それではまず最初の質問です。私にはどのような仕事が向いているのか、御教授頂けませんでしょうか?!」
「…おい…」
「は、はい…」
「あんた、いい加減にしとけよ、一応は大学生なんだろ」
「えぇ、えぇ、それはもう、一応は大学生です!えぇ、えぇ!」
「なんなんだ、あんたは…あのな、あんたが向いている仕事なんか知らないよ。そんなもん無いかもしれないね。だってさあ、あんた、うちへの志望動機は無いし、これといった特技も無いし、ね、それなのに向いている仕事もへったくれもないだろうが?」
「なるほどなるほど、はい、はい、それはもう、確かに仰せのとおりで、えぇ、えぇ」 
「他に、質問は?」 
「それでは、次にお尋ねします!私が採用頂けたとしたら、私の給与体系はどういうことになりますでしょうか?」
「そんなこと、考えても仕方ないと思うよ!」
「なるほどなるほど、全く仰せのとおりかと存じ上げたく、えぇ、えぇ」
「他は?」
「では最後の質問です!あのぅ、私はどうしたら御社に入社出来ますでしょうか?!」
「なに言ってんだあんたは!この状況でうちに入社出来るかどうか、自分で考えてみろよ!」
「なるほどなるほど、じゃあ自分で考えてみます。えぇ、えぇ…」
「…」
「…うーーん…」
「……」
「…うーん…うむ、うむ、そうか、なるほど、うむ………」
「………」
「…うーん…ああ…えーと…みたいな」
「おい!」
「はい…?」
「あんた、遊びに来たの?うちをなめてんのか?!」
「いえいえいえいえ!とんでも御座いません!小生、御社には大いなる敬意をお支払い申し上げている所存に御座りまする」
「あっははは。バカか、あんたは」
「は、はい、バカで結構で御座います。あのぅ、実はですね、小生、常日頃より父親からもバカ呼ばわりされておる始末に相御座りまして」
「ははは、そうだろうな」
「しかるに、小生、母親よりは、深い深い、海よりも深い愛をもって育まれてまいりました所以にござりまする」
「はーっはっはっは」
「さても、此度はまこと恐縮の限りに候えば、かかる御はからい、宜しからざらんや、あにはからんや、小生なりに存じ上げ相奉る所存に御ざりたく候」
「はい、それでは次のかた、どうぞ!」
「はーて、小生、いかばかりか…」
「次のかた、どうぞ!」


以上

2014/01/03

書き初め




初夢と 着物と破魔矢と 書き初めと 琴の爪弾き あとなんだっけ 


お正月 めでたくもあり めでたくもなし はっと悟って デデンとまどろむ 


弁天さま 大黒さまに 恵比寿さま たまには一緒に ご遠慮せずに 


正月に 何かカタコト やっている 隣家に差し込む 綺麗な夕陽


初笑い 甘い汁粉に きなこ餅 やがて恋しき 夜風のビール


本年「も」 宜しくどうぞと 年賀状 新たな年明け 何故「も」を付ける


お雑煮を 小さくかじる 15さい 大口あけて 45歳


どたどたと 若さはじける ふくらはぎ どこもかしこも 踏んでけとばす 


庭先に 雀さえずり 忍び足 どんと踏み出す いのちのリズム


未成年 不平も不満も 親譲り むっとした顔 もっと似ている


正論は 単純明瞭 いや違うと 教える側が ちぎってこねる


グローバル 光のマネーが 7回半 権威も担保も 追いつけないぞ


プロバイダ ヒット回数 スポンサー 評論うるさい ユーザは随意


金貸しが 切って見捨てた 貧乏人 お願いですから 借りてください


宝くじ 当たった爺さん パチンコへ だったら最初から パチンコへ行け 


意味と意義 分けて活かせば 英雄で つなげて通せば 人徳者かな


多様性 議論の余地がと 評論家 でも真実は 議論をしない 


過ぎたれば 及ばざりしと 大激論 まだやってるの もう終わったの 


戦争の 回避を願う 我々に 願わぬ相手が 合意しうるか


多数決 勝っていよいよ 多数決 昨日の友は 今日の仇敵


賀正

謝辞

ここに提示の記事は、いずれも私自身の判断責任のもと編集・投稿したものです。

大半の投稿は学生など若年層向けを意図してやや平易な表現にて、通俗性は極力回避しつつ、論旨の明示性を重視しつつ書き綴りました。あわせてまた、社会人の皆様にお読み頂くことも想定しつつ、汎用性高い観念知識を相応に動員しながら記した積もりです。

私なりの思考着想によるささやかな閃きが、皆様の諸活動にて何らかの光源たり得れば、望外の喜びであります。

山本