2014/04/13

オーバーフロー



「先生、こんにちは!お部屋までご案内頂いて、本当に感謝しております。あたし、とうとう来ちゃいました!」
「やあ、いらっしゃい!…わざわざ来てくれたんだから、ちょっと奇妙な話をしてあげよう。実はね、この部屋は、以前は或る女性が住んでいたんだけれど、その女性がどこかへ行ってしまってね、代わりに僕が住んでいるんだ」
「わぁ~、なんだか、ゾクゾクしますね」 
「いいかい?君はいまこの部屋まで階段をのぼって来ただろう、さあ、階段は何段有ったかね?」
「はぁ、数えませんでしたけど…」
「じゃあ、数えなさい。まず、いったん階下まで降りていってごらん、全部で何段有るか。それからあらためてここまで階段をのぼってくるんだ、その時に今度は何段あるかな?」
「変なの…なんだか解らないけど、やってみます」

「さあ。階段を数えたね、幾つだった?」
「はい!先生!降りていく時は13段だったのですが、またのぼってきたら14段でした!」
「不思議だろう、はっははは」
「ホントにビックリしました!いったいどうなっているのですか?」
「知りたいかね?いや知りたくなくても教えてやろう。あのね。階下とこの部屋は、ちょっとだけ次元が違うんだよ。だから、階下からのぼってくる時にね、別次元に移行するための特別なステップを踏んでくるわけなんだ」
「へぇーっ!じゃあ、この部屋は異次元の世界なのですか?」
「簡単に言えば、そうだ。ほら、トランプのカードを思い出してごらんよ。どの柄も普段は13枚しかないけれども、でもジョーカーを加えたら?」
「ああ、14枚になりますね!そうか、つまりヒトケタ次元が高くなると、そういうことなんですね!」

「どうだ、この部屋まで来ただけでも、大発見が有っただろう?」
「はい!もう大満足です」
「…ところで、ここに窓が有る」
「はい、有りますね」
「この窓は、とっても素敵な窓なんだよ…いいかい、僕はね、実は、親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばっかりしているんだ」
「あっ!先生!何をするんですか!?」

その男性教師はいつの間にか、縄の一端を自分の机の脚に括りつけており、その縄を掴んだまま、窓からヒラリと。

「先生~っ!自分が何をしていらっしゃるのか、分かってるんですか~?!戻って来て下さいっ!」
「やだよ~~だ」

男性教師はすすすっと庭まで降りていってしまった。


「先生、本日はお部屋までお招き頂き、有難うございます!僕、来ようかどうしようかちょっと迷ったんですけど、やっぱり来ちゃいましたよ」
「あら~!いらっしゃい!待っていたわよ…せっかく来てくれたんだから、ちょっと奇妙な話をしてあげる。実はね、この部屋はかつて、或る男性が住んでいたのよ。でもその男性が行方不明になっちゃって、それで今はあたしが住んでいるわけなの」
「そうなんですか?僕、なんだかワクワクしてきました!」
「ねぇ、あなた、この部屋まで階段を上がってきたでしょう。何段あったか、数えたかしら?」
「さあ…数えませんでしたけど…」
「じゃあ数えてみて。いい?まずいったん下まで降りていって、それからあらためてここまで上がってくるのよ。それで階段が何段有るのか、数えてみるのよ」
「へー。変なの。でもいいや、やってみます」

「さぁ、どうだった?階段は何段有ったかしら?」
「先生!ビックリしました!降りて行くときには14段しか無かったのに、またここまで上ってきたら15段有ったんです!」
「ふふふっ、驚いた?」
「はい!いったい、どうなっているんですか?」
「知りたい?いえ、知りたくなくとも教えてあげるわ。実はね、この部屋は、異次元の部屋なのよ」 
「ヘェーーーッ!すっごく不思議ですねー!」
「…ところで、ほら、この窓」
「はぁ?」
「…ふふふっ…この窓はね、とっても素敵な窓なのよ…ねえ、あたし、親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしているの」
「あっ!先生、何をしているんですか!?やめて下さい!戻ってきて下さいっ!自分が何をしているのか分かってるんですかっ!?」

ずっと続く