2014/08/26

早慶入試英語の単語と読解

英文解釈についての諸々のテキストや参考書をたまに散見するが、いつまで経っても、SVOC型の「英文解体法」を前提とした解説が多い。
あまりにも執拗なので、あたかも特定の宗教・思想に則った指導方式なのではないかと見紛うほどである。 
しかし僕なりに普通の市場経済人として、(もう何度も繰り返してきたが)敢えて言う。
人間が人間のために一定の汎用常識にのっとりつつ、特定の意思をもって記した文章を、品詞によって無機的に解体し、それで一体なにを理解させようとしているのだろうか?
言葉は、化学式や数式とは違い、個々要素とその総体は常にエネルギーが異なるのものである。

僕自身も国内外で少なからずの英米人に英文解釈についてアドバイスを受けたことがあるが、SVOC方式によるメッセージ解体メソッドなど「ただの一度も」聞いたことがない。
英語を理解するためには、ともかく多く読め、そのメッセージ自体から新たな知識を得よ、知識の組み合わせが論理だ、論理そのものが知識だ、というのが彼ら一様のアドバイスである。
だから、自然科学にせよ経済にせよ法務関係にせよ、英文の理解に最も望ましい教材はそれら諸分野のコンパクトな用語集である由、併せて頻繁にアドバイスされた次第。

とはいえ、むろんほとんどの未成年の受験生は、特定の学術分野における英単語のみでは多方位の学習は難しかろう ─ そういう学生だって居ないことはないし、これからますます必要とされていくとも察せられるものの。

…といったところから閃いたのが、以下に挙げた英文解釈の4分類で、これらが読解英文として典型的なタイプたりうるのではないか。
いずれもサンプル教材のつもりでまとめたもので、SVOC式の英文解体術によって単語をバラしていてはなかなか文脈理解に至らない例である。 
・① 損得判別タイプ
・② 観念複合タイプ
・③ 観念分解タイプ
・④ 主客混合タイプ

とくに、敢えて早慶の一般入試英語から引用する理由は、英文における単語の抽象性が高いこと、同時に論理性も高くなること、あわせて時事性も高いこと (さらに過去問の分量が極めて多いこと) に依る。
  

・① 損得判別タイプ: 様々な損得トレードオフ関係を論じるビジネス論.
以下に赤字で記した基本的な損得観念タームを理解しておくこと必須。

<早稲田政経2013-I より一部抜粋>
フェアトレード商標製品に対して未だに残る先入観の例、として挙げられている箇所 
The view in some quarters is
that Fairtrade is for people with a high disposal income,
and in these hard times it’s not something most people can afford to buy into.
(中略)
In many cases,
people associate Fairtrade with charity, rather than trade,
and particularly with crafted products.
(中略)
Only a small percentage of the retail price finds its way back to producers.

<解説>
high disposal income something most people can afford to buy into が正反する観念であること (フェアトレード商標は前者向けである一方で、不景気に後者が購入出来ないもの) と理解可能。
またcharity trade も正反する行為であり、かつ、crafted products は前者の端的な例であることまで語彙から理解可能。
さらに、retail price のごくわずかが producers へ、と前者が全て後者に還元されるわけではないことも、ビジネスの基礎知識から了解可能なはず。
※ 本箇所から本テキストの全貌理解が導かれるものではないが、「フェアトレード商標製品へのコスト負担見識が一意に定まっていない」由は了解すること出来る。



・② 観念複合タイプ: 多元的な観念を複合的に組み合わせ全体を定義するもの
以下、おのおの英単語の多元的な意味を要了解。

<慶應総合政策 2014-II より一部抜粋>
人権意識の国際的な拡大と解釈変容を描写した箇所
The third-generation human rights (ここでは世界的人権解釈の第三世代)
encompasses ill-defined rights
that protect collective rather than individual interests
and includes
the right to development, the right to international solidarity, and the right to peace.

<解説>
キーワードはright interest で、いずれもその語だけでは意味を形成せず、別の語との組み合わせで初めて意味を成す。
ill-defined rights「不明確な権利」とおいても、まだ定義がハッキリせず、どちらかいえばcollective interest を守るもの、とつながってやっと論旨が明確になる。
(実際に本論でも、輪郭の峻別しにくい多極的な権利論が展開されている。)


<慶応医2014 II より一部抜粋>
The biological origins
of the co-operativeness and, on occasion, extraordinary self-sacrifice
that characterise humans and have led to their ascent
are less easy to elucidate (明白にする/語注付).

<解説>
biological origins「=生物としての起源」という実体of以降の co-operativeness
「=協調本能」及びself-sacrifice「=自己犠牲本能」 という属性と同質同体であり、さらに、それらの属性が人間性を特徴付けつつ祖先まで遡及も出来た
 ─ という関係付けまでは、それぞれの語義が実体を指すか属性を指すかという判断から見いだせるので、andが複数おかれた多重構造の文面でも混乱しない。
(その上で、この関係付けは容易には明らかに出来ない、という大意まで導ける。)



・③ 観念分解タイプ: 或る抽象観念を、別の抽象観念に置き換えて分析進める構成。
理数分野での英単語観念に通じる必要あり。

<早稲田理工 2014 IV-Section A より一部抜粋>
Reductionism is a philosophical position
which holds
that a complex system is nothing but the sum of its parts,
and that an account of it can be reduced to accounts of individual constituents.

<解説>
まずcomplex system とそのparts sumが同量であることは語義から了解、さらに、その(complex systemの)ひとつのaccount=概念単位」が個々のconstituents accountsとなりうることも了解出来る。
ここまで了解出来れば、或る「個」の複合系をその構成要素の「総和」に還元する行為をreduce 動詞で表し、この立場を堅持する哲学上の立場がreductionism であることも把握出来る。
(文章構成自体は極めて単純なので、語義さえ抑えておけば読み取りは容易。)

  
 
・④ 主客混合タイプ: 哲学論、頭脳論やIT論など、主体および客体として表裏一体で論じるもの。最も難度高い。
生命/情報処理/機器にかかる非人格な用法の名詞(及び動詞)充足が必須。

<慶應環境情報 2013-I より一部抜粋>
ネット利用者とbrowserGoogleの関係を一気に記した箇所。
The assumption ここではネットユーザによる仮定)is that
searches for “intestinal gas”() and celebrity gossip are
between you and your browser  
  (途中略)
... it’s that behaviour
that determines what content you see in Google News, what ads Google displays
that determines, in other words, Google’s theory of you.

<解説>
browser とは何か、contents とはどこの何を指すか、ads とは何か、まずこれらの語義理解が必須。
そこから searches の主体はyoubrowserであること、behaviour の主体もyoubrowserであることがわかる。
さらにdetermines の主体は youbrowser によるbehaviour であること、theory of you とは youの検索傾向習慣を意味すること了解出来る。

(特に本例で分かろうが、SVOC式の英文解体などはむしろ全体理解を遠のかせるばかりである。)

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以上、今後の参考となれば幸いである。