2014/12/12

アモルファス


「あなたって、ちっとも優しくなかったわね」
「そんなことないよ、俺は性根は優しい男なんだ」
「…でも、あたしに対しては、ち~っとも優しくなかった…!」
「だから?」
「あなたって、冷たい」
「ふん。もういいじゃないか」」
「うん、もういいわ、あなたは私に対して、いーっつも冷たかった」
「それはそうかもしれないが、でもね、君だって、俺にはいつも退屈だったぞ」
「そうよ、あたしはちゃんとした男性に対してしか、誠意を尽くさないことにしているの」
「だから退屈なんだよ、君は」
「いいわよ、あたしは退屈な女なのよ、退屈な男性に対しては」
「そういう女だから、君は退屈だって、言ってんだよ」
「そうね、もう、それでいいわ、あなたはそういう男だから、もうそれでいいの」
「君はどうも、分かってないんだなあ、さっぱり」
「分かってないのは、あなたの方なのよ、ひとの気持ちが全然分かってないの!」

「さーて、ここでお別れだ、俺はね、右の道を行く、だから君は左の道を行けばいいよ」
「そうね、これでお別れね、もう会うことは無いのね…」
「うん、二度と無いだろうな」
「それじゃあ、さよなら」
「…ちょっと待て、おい」
「なによ」
「やっぱり、俺が左の道を行くから、君が右側の道を」
「ふふっ…どっちでもいいわよ、じゃあ、そういうことで、さようなら」
「そうだな、サヨウナラだ」
「…ねえ」
「なんだよ?」
「雨が降ってきたわよ」
「いいよ、俺は濡れていく」
「でも、風邪をひくわよ」
「君には関係ないよ」
「そうね…じゃあ、さよなら!」

「おいっ、ちょっと待て」
「なによ?!」
「今、ふと思いついたんだが…もしも、この次に君と出会ったら、その時は俺はどうすればいい?」
「知らんぷりしてくれればいいわ、無視してくれればいいわよ」
「そうか、ふーん」
「そうよ、つまらないこと訊かないで、バッカみたい!」
「そうだな、俺は退屈な男だ。でも君だってヘンな動物みたいだぞ」
「いいわよ、ヘンな動物で…!」

「さーて、それじゃあここであらためて、ヘンな動物とお別れだ。えーと…あれ?君が右の道を行くんだったっけ?」
「さぁ、どっちだったかしら」
「いや、俺が右を選んで、君が左から去っていく、だったかな」
「…ねえ?」
「なんだ」
「ここじゃ寒いから、一緒に右の道を交差点まで行って、そこでお別れってことにしない?」
「馬鹿だな、君は。それで今度は、交差点の喫茶店で雨宿り、ってことになるかもしれないだろう」
「ふん。馬鹿でいいわ。じゃああたしは行くから」
「待てよ、本当にこっちの道でいいのか?おーーい!」


(ずっと続く)