2017/09/20

インテリ社会人のような英語表現

ふっと閃いて、過去数年の某英文誌における気の利いた英語表現について、ざっとまとめてみたくなった。
大学生のガキどもにはちょっと厳しいかもしれないが、実社会人で英語を使いまわしつつインテリを気取っている人たちならば、まぁ過半は分かるのではないかな。
所詮はそんな程度のものゆえ、あまりテクニカルな実践性は無いけどね。
以下、英文そのものではなく、表現部分のみを抜粋してみた。

  • take on the cotton barons
  • balance two competing imperatives
  • a pillar of stability
  • overhaul an educational system
  • an economic system that glosses over the country's responsibility
  • deliberations between America and Japan
  • selling for a song
  • fierce competition with elbows flying
  • climb above the sharp elbows of rivals
  • slur stuck
  • tiptoe round the issue
  • collaborate on the basis of nepotism
  • selfishness and altruism
  • red in tooth and claw
  • once-feted but now-disgraced
  • cut corners in science
  • uneasy bedfellows
  • create a business from a scratch
  • in for a penny
  • rock the boat
  • huff and puff
  • sow turmoil
  • a clutch of alarmist books
  • you/he/she of all people
  • the unshackling of markets
  • conundrum and riddle
  • coaxed and wheeled into market choices
  • change the size of the deficit, one jot
  • raise anomalies of one's own
  • a bit of a fudge
  • a subordinate officer
  • rags to riches
  • on a dodgy ground
  • dwell on someone of Indian extraction
  • waxes and wanes
  • a talk that stokes indignation
  • horse-trading over investment
  • wisdom or senility
  • run corner to efforts
  • boot workers off their jobs
  • a blue-sky research
  • encumbered with nasty advisers
  • military conscription
  • amputate legs and genitals
  • clay labours
  • senior conscript
  • hush up
  • steel yourself
  • iconoclast
  • natural attrition
  • peddle an argument
  • ride on an answer
  • topsy-turvy
  • statistical tangle
  • caveat
  • a damp squib, not a constant ray
  • past lean years
  • fitful and half-hearted
  • rigging personnel
  • ward off that company's hostile bidding
  • pre-empt a hostile bid
  • a gap to a chasm
  • a research outfit
  • technologies at the margins of existing firms
  • socio-economic marginalisation of women
  • resonance
  • economic rationalism (that is) swamped by nationalism
  • coin oneself
  • inhibition of growth
  • a virtuous circle in online forays
  • pay homage to the insight of Shumpeter
  • a rule of thumb
  • management practice to vie and outdo competition
  • small close-knit group
  • no more flattering tribute than one's words
  • the once most propriety outfits
  • in the for corners of the earth
  • the vouched code
  • self-policing to ensure quality
  • cold snap
  • bump the company a few notches down the ladder
  • weather a period of deindustrialisation
  • depart to give final consolation
  • irrational exuberance
  • semantic issue
  • put a warning in the shade
  • tip a balance
  • kill for a position
  • switch in default rules
  • entrust pension money to his employer's custody
  • inertia
  • deeply embedded in culture
  • bronze-fisted, silver-tounged
  • come back down to earth
  • desert their president
  • deliver on promise
  • preside at the committee meeting
  • tax break for low income family
  • seared money
  • phase out
  • gas from diffuse fields
  • the hitch is ...
  • lend credence to a theory
  • rubberstamp the policy's revival

 ……こんな程度のものなら、まだまだワンサカとストックがあるので、いずれまた気が向いたら。

以上

2017/09/06

製鉄の基本

或る本をきっかけとして、製鉄についてごく大雑把にまとめてみたくなった。
高校化学の選択者なら誰もが一度は意識したであろう、鉄と酸素と炭素と温度のかかわり ─ しかしながら、鉄は極めて「業際的」な工業素材である。
よって、製鉄の工程について概ね理解することは、ひとえに化学に留まらぬ意義深い基礎教養たりえよう。
以下にごく簡単にサマライズしてみた。


<酸化鉄>
・約46億年前に地球が生成してから永い間、地球の大気は炭酸ガス、そこでマグマに含まれた鉄はイオンとして水に溶け、海に混じり出した。
鉄イオンは海中の酸素と結び付いて、酸化鉄として海底の岩石を成し、これがそのごに隆起して大陸となったので、酸化鉄である赤鉄鉱(ヘマタイト、Fe2O3の鉱脈をつくった。
赤鉄鉱は現在、露天掘りで大規模に採掘が出来る。

なお、日本列島は火山造成なので、赤鉄鉱はほとんど無いが、火山から噴き出したマグマが風化して、とくに磁性の強い酸化鉄、つまり砂鉄≒磁鉄鉱(マグネタイト、Fe3O4) を成した。
砂鉄鉱は、花崗岩や安山岩として河川に流れ込んできた。

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<融点低下・還元>
酸化鉄の鉱石から酸素を分離(還元)するため、炭素を用いる。
炭素を用いるメリットは、燃焼過程で鉄鉱石から酸素を引き離すこと、かつ、鉄鉱石の融点(凝固点)を下げ融解分離を促すこと。
ここまでの工程が、溶鉱炉(高炉)にてなされる銑鉄の摘出つまり製銑である。

溶鉱炉にて、鉄鉱石に炭材(コークスや木炭)と石灰石を混ぜ、約1200℃の高圧熱風を吹き込むと、炭材が燃焼して二酸化炭素を発生、さらに炭材と反応して一酸化炭素となり(ブードワー反応)、鉄鉱石から酸素を奪い還元する。
このブードワー反応は鉄の本来の融点以下で進み、鉄は固体のままでも還元が始まる。
しかも、固体としての鉄は炭素を吸収しやすい構造であり、炭素吸収によって鉄の融点は下がり続ける。
こうして、還元された鉄を溶鉱炉中で液滴として得られ、これが銑鉄である。
銑鉄中の炭素の多くは冷却すれば黒鉛として析出され、銑鉄は鋳型に流し込んで鋳物に出来る。

なお、赤鉄鉱の結晶は、鉄と酸素の原子配列がやや粗いコランダム構造を成し、一方で、磁鉄鉱の結晶はこれらの配列が密なスピネル構造を成す。
よって、赤鉄鉱の方が還元しやすい結晶構造であり、ヨリ低温から還元が始まる。
これら鉄鉱石にはもともとシリカやアルミナなどの脈石が混在しており、上のプロセスで還元中にもこれら脈石は残留し、石灰成分と反応してスラグを成し分離する。

鉄は炭素濃度を4.2%まで増やせば融点が1154℃まで下がる、尤も、これ以上に炭素濃度を増やしても融点は下がらない。

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<炭素濃度低減・精錬(製鋼)>
銑鉄や鋳鉄は2~4.5%の炭素と不純物(ケイ素やリンや硫黄など)を含んでおり、このままでは展性や延性に乏しい。
これら銑鉄を加熱し、炭素分離すれば、軟らかくて粘り気あり加工性に優れる「粗鋼」を獲得出来る。
この脱炭による粗鋼獲得の工程プロセスを精錬(製鋼)といい、転炉でなされる。

融解した銑鉄を転炉に入れて生石灰などと混ぜ、高圧で酸素を吹き込んで急速に酸化熱を発生させると、銑鉄から炭素や不純物が分離し、粗鋼が出来る。
炭素が分離されるので、粗鋼は融点が高くなり、鋼塊としても溶鋼としても得られる。

こうした得られた粗鋼が、圧延や外延の加工プロセス以降に回される。
ここで分離された不純物もスラグとして固定化される。

※ 転炉における粗鋼の精錬の基本工程は、ベッセマー方式の確立後、根本的には現代まで変わっていない。

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<以上までの、還元~脱炭の反応内訳>

炭材による、酸化鉄鉱石の還元
3Fe2O3 (酸化鉄III) + CO (一酸化炭素) → 2Fe3O4 (酸化鉄III鉄II)+ CO2 (二酸化炭素)
Fe3O4 (酸化鉄III鉄II)+ CO (一酸化炭素) → 3FeO (酸化鉄II) + CO2 (二酸化炭素)
FeO (酸化鉄II) + CO (一酸化炭素) → Fe (鉄) + CO2 (二酸化炭素)

銑鉄の酸化と脱炭による、粗鋼の精錬
Fe (鉄) + 1/2O2 (酸素) → FeO (酸化鉄)
C (銑鉄中の炭素) + FeO (酸化鉄) → Fe (鉄) + CO (一酸化炭素)

以上は鉄鉱石の還元~銑鉄の脱炭反応を段階的に成すフローだが、一気に直接成す反応と工程もある。

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<熱間加工・含有炭素量の調整>
そもそも鉄元素は(粗鋼も)、温度によって結晶粒子構造の異なる同素体であり、結晶構造に応じて含有炭素量が以下のように変化する。
912℃以下…α鉄、体心立方格子、粒子間が小さく、炭素は0.02%までしか溶けない。
912~1394℃…γ鉄、面心立方格子、粒子間が大きく、炭素が1.7%まで結合する。
1394℃以上…δ鉄、体心立方格子、粒子間が小さく、炭素は0.1%しか溶けない。

そこで、粗鋼をたとえば以下のように「熱間加工(鍛造)」して、炭素含有量を調整する。
「焼き鈍し」…γ鉄をゆっくり800℃以下まで冷却し、フェライトとセメンタイト(炭化鉄)の交互分離したパーライト層構造とする。
この結果、α鉄は全体としてフェライトの軟らかく粘り強い性質を有す。
「焼き入れ」…γ鉄を水で急速に冷却し、フェライトとセメンタイトのパーライト分離をさせず、炭素が過飽和で粒子の動きにくいマルテンサイト組織状態に導く。
この結果、α鉄は硬いがやや脆い性質を有する。
「焼き戻し」…急冷したγ鉄を、また600℃くらいに熱し、マルテンサイト組織からセメンタイトの小粒子を分離する。
この結果、硬さをやや軟化させつつ粘り気を出すことが出来る。

工業用途としての粗鋼は、実際には以下の炭素含有量にて精錬/製鋼されている。
最硬鋼: 炭素残留量が0.80%以下、硬いが脆い
硬鋼: 炭素残留量が0.50%以下
軟鋼: 炭素残留量が0.35%以下
   特に0.3%以下のものをいわゆる普通鋼と称す
極軟鋼: 炭素残留量が0.12%以下、極めて軟らかく粘り気がある
   特に0.02%以下のものがいわゆる工業用純鉄である

なお、炭素以外の元素を加えた鋼は合金鋼と称す。
たとえば、鋼にクロムとニッケルを混ぜると、これら物質が不動態の酸化被膜をつくり、ステンレス鋼となる。
特殊な性能用途を企図して合成されたものは、特殊鋼と称す。

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※ ところで、銅の融点は1084℃、これは木炭でも十分に実現可能な温度、よって古来から青銅器をつくる際には木炭を用いていたとされる。
この木炭による熱と炭素の古典的技術が、ある時に鉄鉱石の還元へ応用されたことは、想像に難くない。

※※ 粗鋼の精錬(製鋼)には、電気炉による方式もあり、これはスクラップ鉄を素材として、電気放電熱によってそれらから酸素ほか不純物を一気に融解分解するもの。
この電気炉での粗鋼精錬は、高炉による鉄鉱石還元からのプロセスに比べ、概して投入エネルギー量も排出ガスも少なく、粗鋼の炭素量と融点に応じて、高炉方式との使い分けがなされている。

※※※ なお、日本古来の「たたら製鉄」は、たたら炉に砂鉄と木炭を交互に積み上げ、空気で砂鉄を還元させて鉄を取り出すシステム。
ここで得られた鉄が「玉鋼(たまはがね)」であり、炭素は0.9~1.8%以下で、不純物はほとんど含まない高純度の鋼である。

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受験生しょくん、ここまでまとめてやったんだから、あとはてめぇで勉強しろ、興味意欲を高められれば幸いだ。

2017/08/26

時を駆ける美女 Part II

※ ちょっと変則的な話ですが、一応はまとまっています。

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高校3年生の、夏休みのこと。
とびきりの美人教師と仲良しになった。

彼女の苗字は伏せるが、名前は杏那 といい、容貌がどことなくヨーロピアンの風だったので、僕らはカタカナでアンナ先生 と呼んでいた。
おもしろい語感だ、あんな先生…あんなすごい美人の先生は、滅多に居やしない。
アンナ先生は体育教師であり、のみならず、或るテニス団体の強化選手でもあった。
ぐっと張って開かれた肩と背中、はちきれんばかりの腕、とっくにはちきれている太股、サラブレッドのシルエット、生気も品位もヴィーナス級。

アンナ先生は、我が高校のテニス部でもコーチを務めていたが、スマッシュを打ちこんで女子部員を怪我させたとかで、しばらくの間は学校で練習し難くなり、それで、ちょっと離れたテニススクールで基礎トレーニングを続けていた。
そのテニススクールが、僕の親族の知人が経営するところであった。
あら、君はうちの高校の山本くんだったわね、ちょっとだけあたしの基礎トレーニングを手伝ってくれないかしらと声がかかり、いやぁ僕はテニスなんか出来ませんといったんは固辞したものの、それでも胸のときめきを抑えることは出来ず、もう進路も受験もへったくれもおあずけで、僕は彼女と約束の時間にそのテニススクールに足を運ぶことに。

大好きな、アンナ先生。
今日もあの先生が、あの女性が待っていてくれる。
真っ白な日差し、もっと真っ白なテニスコート、レモンとライムのスパークル。



ところで。
高校3年生の、夏休みのことである。
或る一人の女性教師に、僕は恋心を抱いていた。

僕は数学の出来が芳しくなく、だから夏期の補習授業に参加させられる羽目に陥ってしまった。
とりわけ整数論や不定方程式がどうも苦手で、ゆえに、大嫌いで、したがい、どうせ大学入試でもろくなことはなかろうと、半ば諦めの境地。
それでも補習授業には毎回欠かさず参加したのだが、これにはドキドキするような訳が有る。
数学の担当教師が、びっくりするような美人の先生だったのだ。
彼女は、ただの美人には留まらず、清楚なブラウスやスラックスの上からまるでスポーツ女子のような発達した体躯も見てとれる。
口数の多い先生ではなかったが、凛とした態度がつねに一貫しており、指導はかなり厳しかった。
この美人先生は、苗字はさておき、名前は杏那 といった。
僕たちは秘かにカタカナでアンナ先生 と呼んでいた ─ それは、彼女がヨーロピアンと見紛うような容貌であり、また、あんな先生という語感が面白かったからである。
面白いどころか、僕は急速にアンナ先生に惹きつけられ、そして、恋焦がれていったのであった。
ヴィーナスのようだ、いや、ヴィーナス以上の綺麗な瞳…。
自制すればするほど、僕はいよいよ受験も進路も上の空で、アンナ先生への恋心が収まりつかなくなっていった。


☆   ☆


夏休みも終盤に近づき、僕は毎日のように、約束のテニススクールへ。
昼下がりのテニスコートは、いつもまばらである。
だから、アンナ先生のとびっきりの美貌がなおさら引き立ち、まして、見事な体躯はもう引き立つどころかこちらの心を引き寄せて留まらない。
とはいえ、そんな僕自身はテニスなどほとんど未経験、ラリーすらまともにこなせず、ましてアンナ先生と打ち合うなど、とんでもなかった。
だから、せいぜいのところ、指示どおりにラケットを構えつつ、彼女が打ち放つ強烈なサーブを冷や汗ものでボレー返球、それをすかさず彼女が狙いどおりに四方八方にスマッシュ、などなどが、彼女と取り決めた基礎練習の運びであった。
もちろん僕には彼女の猛烈なスマッシュを打ち返す義務も無く、そんな術もなく、でくのぼうみたいに見送るだけが精一杯、たまさかラケットに当ててみれば僕の腕を持っていってしまうような凄まじい衝撃、これでは女子部員が怪我するのもやむなしか。

どう?テニスって緊張するでしょう?
そんなふうにアンナ先生が悪戯っぽく微笑みながら、ラケットで僕の胸を小突くこともある。
山本くんも、上達したい?
いいえ、僕は今の基礎トレーニングのお手伝いだけで十分です、だって、アンナ先生の真似は出来そうもないから。
つい調子に乗って、苗字ではなく名前で呼んでしまう。
あ、なれなれしいぞ、君は、とアンナ先生はふざけ声を挙げながら、でも、いいわよ、君の好きにしなさい、と。


☆   ☆   ☆


夏の数学補習は、延々と続けられていた。
僕は、顔だけは課題の答案用紙に向けつつも、心はいつもドキドキ、美貌の女教師のもとへ。
こんなだから、数学の勉強はなかなか捗らない。
「山本くんは、雑念が多すぎるのかしら。どうも、いけないわね」
依然として、アンナ先生の言いは端的であまり抑揚もなく、だから却って厳しく響く。
それでも、話しかけられたことがもう嬉しくて堪らず、僕はつい、おずおずと口走ってしまう。
「あのぅ、アンナ先生、僕は整数論と不定方程式が…」
すると彼女は、端正な顔をちらりとも崩さぬまま、きっと僕を見据えて容赦なく、ぴしりと。
「どうしてあたしを苗字ではなくて名前で呼ぶの?失礼でしょう!」
「はぁ、すみません」
「ねえ山本くん、あたしは生徒に対して馬鹿という言葉は使いたくないんだけれど、君が望むのなら話は別よ」
これには僕は本当に情けなくて、せつなくて、やるせなくて、彼女の足のつま先を見つめるのが精いっぱいであった。

そんなふうに、どこか空周りしつつ過ぎ去っていく補習授業の日々。
しかしある日のこと、アンナ先生が、ふと僕の目を凝視しつつ、囁くように語り始めた。
「山本くん、ひとつだけヒントをあげる。どんな思念も、そしてどんな人間も、どこかが他者と重なっているでしょう。ということは、どこかが切れているってことでもあるのよ」
「…はい?」
「その 『寂しさ』 を知りなさい。そうすれば何もかも分かるから」
「……」
「山本くん!強くなるのよ!みんな強くなければならないの!」
僕はしばらく呆気にとられ,彼女は足早に教室を去っていった。
そのとき、二度と彼女には会えないのではないか、という不思議な直観が僕を身震いさせていた。



☆  ☆  ☆  ☆


夏休みはいよいよ終盤に差し掛かっていた。
テニススクールでの、僕を伴った基礎トレーニングが済むと、アンナ先生は休憩をとって、それから夕刻以降の本格トレーニングに挑むことが日課となっていた。
その休憩時間の合間に、2人で喫茶室へ。
レモンライムの注がれたグラスにストローを2本刺して、アンナ先生と僕は額をくっつけ合いながら、ぐいーっと。
それから彼女を後ろに乗せて僕が自転車を漕ぐ、その二人乗りのまま、町はずれの遊歩道をぐるりと周回する。
もっとしっかり、力を入れて漕ぎなさいよ、男の子でしょう!
アンナ先生がケラケラと笑いながら、僕の背中をタオルで叩く。

遊歩道の木陰で自転車を留めて、軽口を叩き合っている、そんなおりに。
アンナ先生がふと怪訝そうな表情を浮かべて、僕に訊いてくる。
山本くんは、勉強は進んでいるの?進路の目途は本当に立っているの?
これに対して、僕は大丈夫ですとか何とでもなりますなどと答えつつ、それでもちょっとだけアンナ先生を心配させてやろうなどと悪戯心も起こり、じつは数学が伸び悩んでいるんですよと言ってみる。
すると彼女は ─


あっ!
そうだったのだ!
何が重なっていて、何が切れているのか、何もかもが分かった

美貌のテニス強化選手であったアンナ先生は、8月の終わりに、とつぜん僕との共同トレーニングを打ち切り、連絡を絶った。
彼女の家に電話を入れてみたら、母親が出てきて曰く、結婚のためにロンドンに発ったとのことであった。
僕は大いに驚き、これが別れというものかと、息を殺して泣いた。
それでも、新学期になってから、超美人の数学教師であったアンナ先生が結婚のためにロンドンに転任していったと知らされた時には、これが寂しさというものかと自覚こそすれ、もう泣かなかった。

おわり

2017/08/17

【読書メモ】 この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた ルイス・ダートネル著 河出書房新社』
本書は軽妙かつユーモラスな科学概説エッセイ、とりわけ化学論である。
少なくとも地球上にて、農業/工業の基幹たりうる化学物質は、はたして何であろうか、それは、苛性アルカリ物質である炭酸ナトリウム(ソーダ灰)と、強力な酸化剤である硝酸でありえよう、またカリウム源および燃源としては木材(木炭)が最高だろう
と、ここのところ実証的に思考実験すべく、本書は半ば冗談めいた人類文明再生プロセス (build our world from scratch) を想定してみせたのではないか。
本著者のダートネル氏は宇宙生物学が専門の由、よって、巷間に喧しい科学論とは一線を画した、いや遥かに卓見した科学論かつ文明論たりえよう
じっさい、本書の記述は分野を超えた横断的な展開を呈しており、エネルギー収支比、農業への投入エネルギーと摂取カロリーなど、熱/物理エネルギー効率にも大いに着眼、また電気応用についても触れている。
かつ、たとえば 「水でさえも化学物質だ」 などというヌーボーとした記述について、どこまでシリアスなのかはたまたユーモアなのか、いずれにしても吹き出すほどおかしい。

ただし、為念の注釈もしおく ─ 本書における諸々の主題は総論概説に留まっており、化学コンテンツについても化学式や定量計算は仔細引用されていない、ゆえに、読み易いともまた読み難いともいえよう、とりわけ、理科に通じた読者が速読する蘊蓄本としては絶好の一冊か。
それでは、以下、特に炭酸ナトリウムと硝酸を根本に据えたさまざまな転用/応用論について、僕なりの読書メモとしてまとめおく。



石灰岩(炭酸カルシウム)を900℃以上の高温環境で熱すると、無機物が分解し二酸化炭素ガスとして放出、残留物はアルカリ性の生石灰(酸化カルシウム)となる。
さらにこれを水と反応させると水分子を分離させ、強アルカリ性の消石灰(水酸化カルシウムとなる。
廃水の浄化にも適する。

・木炭をつくる(炭焼き)過程で有機物と無機物に分離できるが、ここで水溶性の無機物質(灰汁)を採って煮沸すると、いわゆるカリ、一般には強アルカリの炭酸カリウムが得られる。
カリウムは植物の生育に必須物質で、肥料に活用される。
さらに、炭酸カリウムを更に強アルカリ性の消石灰(水酸化カルシウムと反応させると、苛性アルカリの水酸化カリウムが得られる。

・海藻の山を燃やす過程で、このうち水溶性の無機物質を採って煮沸すると、強アルカリのソーダ灰(炭酸ナトリウムが得られる。
これも、消石灰(水酸化カルシウム)と反応させると苛性アルカリのソーダ(水酸化ナトリウムが得られる。

・生物体内にて、余分な窒素は水溶性化合物つまり尿素に換えられるれるが、これを発酵させればアルカリ化合物であるアンモニアを採れる。

※ そもそも、植物体内にては、エネルギー移動のためにリンを必要とし、水分損失を防ぐためにカリウムも必要とし、そしてタンパク質合成のために窒素(アンモニア)が必要。
これらが農地の土壌成分に含まれねばならない。
なお、エンドウ、インゲン、クローバー、大豆、ピーナッツなど豆科の植物は、生育する過程で栄養素を土壌中に再注入する能力がある。
17世紀以降のいわゆる(ヨーロッパの)農業革命は、特定の農作物を活用し土壌中の窒素量を増やしつつ循環させる技術であった。

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・木材から木炭をつくる(炭焼き)過程で発生する有機廃棄物のガスを分溜すると、有機の木酢から主に酢酸アセトンメタノールを抽出出来る。
酢酸は酸性で、アルカリの炭酸ナトリウム水酸化ナトリウムと反応して酢酸ナトリウムをつくり、これは染料や顔料として使われてきた。

・海水を電気分解すれば、塩素ガスを得られる。
塩素ガス黄鉄鉱を反応させれば、硫酸塩化水素ガスを得られる。
硫酸によって、土壌中のリンを分解し植物に回すことが出来、だから人工肥料としてよく用いられている。

塩素ガスは、消石灰(水酸化カルシウムないし苛性ソーダ(水酸化ナトリウムと反応させると酸化して漂白剤になる。
また、水に溶かせば塩酸になる。

・ラードなどの油脂を成す炭化水素分子と脂肪酸(カルボン酸の意か?)を、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などのアルカリで加水分解(置換)すると、脂肪酸塩になり、これが炭化水素を以て油脂と水を界面的に(弾き合うように)繋ぎ、石鹸にもなる。
この生成過程でグリセロールも抽出出来る。

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・木材を徹底的に燃焼させると、化学結合エネルギーの大きな有機物つまり木炭だけが残り、木炭は木材どころか石炭よりも高温で燃える。
燃えながら一酸化炭を放出し、これが極めて強力な還元剤として、金属製錬プロセスにて酸素や硫黄などを分離させる効用がある。
一方で、木炭の重量は木材の約半分となるため、実に有用なエネルギー源たりうる。

・植物のセルロース繊維は、リグニンによって強力に束ねられた重合体であるが、これを苛性ソーダ(水酸化ナトリウムに長時間浸して加水分解(置換)すると、重合体が切れて、加工しやすいパルプ材になる。

・粘土は、アルミノケイ酸塩鉱物で出来ており、これはアルミニウムケイ素がそれぞれ酸素と結合したものゆえ、不燃性である。
これを900℃以上で加熱すると、粘土粒子が強固に融合を始める。
この物質にナトリウムを加えると発熱し、ナトリウム蒸気が年度中のシリコンと混じり、ガラス質の皮膜となり、これは耐火性に優れつつ防水機能にも優れている。

・ソーダ灰(炭酸ナトリウム)は、ガラス製造にて砂を溶かすための融剤として不可欠であり、世界で生産されるソーダ灰の半分以上はガラス製造のために用いられている。

・消石灰(水酸化カルシウム)に少量の水を混ぜると、石灰モルタルになり、レンガ類の結合能力がある。
これが土中成分のアルミニウムケイ素と水和反応すれば、さらに強度が増してセメントになリ、セメントは水中でもむしろ解けずに硬化する性質を有する。
セメントからコンクリートもつくれる。

セメントもコンクリートも、古代ローマ帝国期には大いに起用され、その建造物は今もなお健在だが、中世ヨーロッパではあまり用いられず、ゴシックの大聖堂は石灰モルタルで出来ている。
なおコンクリートは圧縮強度は高いが張力には脆いため、抗張力のある鉄筋とともに建材に用いられている。

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・生石灰(酸化カルシウム)と水を反応させると、アセチレンを得られる。
アセチレンは燃料ガスとして最も高熱の炎を発し、アセチレンガスと酸素を活かせば3200℃以上の金属溶接器も作れる。

・鉄鉱石に石灰岩(炭酸カルシウム)を混ぜると、鉱石内の不純物質の融点を下げて液化し、溶鉱炉から除去出来る。

・堆肥の窒素(硝酸の状態の意?)に消石灰(水酸化カルシウム)を加えると、カルシウムが硝酸イオンと結びつき、更にこれに少量の炭酸カリウムを混ぜると分子構造が置き換わって、炭酸カルシウム硝酸カリウム(硝石)を得ることが出来る。
この硝酸カリウムに多くの有機物を結合させて一層酸化させると、酸化剤としての硝酸カリウムと還元剤としての燃料分子が極めて急激に反応しあうため、燃焼しまた爆発もする。

人類最初期の黒色火薬は、硝石を酸化剤とし、木炭を還元剤として、硫黄を混ぜたもの。
硝酸カリウムに、セルロース繊維をもとにした有機物を結合させると、ニトロセルロースを作れる。
またグリセロールを活かせばニトログリセリン(ダイナマイト)にもなる。

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・アルカリとして最重要の化学物質たりうるソーダ灰(炭酸ナトリウム)を、確実にかつ効率的に製造する方式の代表例が、いわゆるソルベー法である。
重炭酸アンモニウム(アンモニア)と二酸化炭素と塩水(塩化ナトリウム)を反応させ、アンモニアによって塩水をアルカリ性に換えつつ、重炭酸イオンをナトリウムに移し、よって不溶性の重炭酸ナトリウム(重曹)をつくる。
この重炭酸ナトリウムを熱してソーダ灰(炭酸ナトリウム)を抽出する。
なお、ここで投入する二酸化炭素は、石灰岩(炭酸カルシウム)の焼き出しから取り出すものであり、残留する生石灰(酸化カルシウム)はアンモニアと塩水の再生に用いている。

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……ここまで、ざっと抜粋メモしてみた。
なお、本書は産業化にいたる工程仔細を精密に記したレポートではなく、たとえば合成アンモニアの製造方式として知られるハーバー=ボッシュ法にしても略記に留められている。
しかしながら、化学における縦横自在な着想の面白さ、その根源への遡及的な思考などなどを更に誘いうるという点にて、本書はなかなか触発的な快作といえよう。

以上



2017/07/22

【読書メモ】 心はすべて数学である

心はすべて数学である 津田一郎・著 文藝春秋
本書はかなり読解難度の高い一冊であるが、この難度は恐らくは本書が呈する 「心」 なるものへの我々の了察の困難さゆえゆえであろう、そして、「心」 の何たるかにつき多くの読者が最初にさしかかる難所は本書 p.52 でなかろうか。
その直前部にて、心の活動が脳という器官に一元的に還元される(いわば唯物論)や、脳が心を徐々に(進化的に)創発する云々の見方が引用され、このように脳が心の活動状態の本源であるとの見方が現在までの「心/脳」への主流アプローチである、と念押ししされている。
それでいて、とつぜん p.52に呈される奇妙な一文 : 「しかし、私はむしろ逆に、心が脳を表していると考えています」
本箇所に差し掛かったとたん、僕は本書を投げ出しそうになった…そもそも心が脳を表すと本著者が主張するならば、それは世の主流としての「心/脳」アプローチと同じ前提に立っているではないか、ならば "むしろ逆に" とは何事か?(「心が脳をつくっている」 を誤植しているのではないだろうか…。)

ひとたびここで逡巡してしまうと、せっかく「不確実性定理」や「超(メタ)数学と論理数学」 さらに「バイオフィードバック」などについて幅広く導入はかっている第一章と第二章についても、どうも僕は精読しきれていないのではと自己嫌悪にすら陥ってしまう。
せめて、脳/心/感性/メタ数学/論理数学の機能分業と関わり合いを階層構造化したアブストラクト図が欲しかった。
それらによってこそ、何が何を写像しあるいは表現し、そして、どこまでが既得の研究でありどこからがこんごの研究たりうるかにつき、本著者と読者の認識共有も進むのではないか。

それでも僕なりに本書主題を概括させて頂くならば、おそらくは、 「心という感性のソフトウェアこそが、脳というハードウェア器官に情報を提供し、それらによって脳が記憶系や反応系のシステムとして機構化してゆく」 、そしてその 『心』 は論理数学として表現しうる(はずである)」、いうのが本書提示の大テーマではないか。

このような僕なりの要約が正しいか否かはともかくも、本書のスリリングな読みどころは第三章以降であろうとは見当をつけている。
脳神経という機構系はどこまで自己完結的なハードウェアか、あるいはどこまでが 「心」 という外部情報に応じているのか、その生成過程は全体的か断片的か、また秩序的なのかカオス的なのか、脳神経機構になぜ記憶能力があるのか ─ 云々といったハードウェアからの探求。
そして - ここがおそらくは本書のメインテーマであろうが、「心」 という感性ソフトウェアと数学との対応性、ここで例示されるカントル集合やフラクタル図形(有限/無限論)、論理と推論と数学への再考…
このように、本書が誘う思考実験はまこと重層的そのもの、よって、数学や論理学ないし生物学に関心意欲のある人たちはむろん、常日頃の勉強がつまらんだのくだらんだのと嘆息している生意気な学生諸君も、本書第三章以降を一読されてみては如何だろうか?

以上
(このような形で本ブログ 【読書メモ】 を簡易にまとめたのは初めてであるが、本書は知識の書というよりも洞察の書なのである。)

2017/07/13

幽霊

「ねえ、先生。おとぎ話とか昔話って、つまらないね」
「ほぅ?それはまた、どうしてかね?」
「だって、どれもこれも、似通っているんだもん。正直なおじいさんやおばあさんは幸せに暮らし、意地悪ジジババは罰があたる、っていうやつばっかり。どうせ、どんなおとぎ話も、作り話なんでしょう」
「それはまあ、確かに作り話ではあるが、しかし、作り話だからこそ、昔から今に至るあらゆる人たちの魂がこめられている。だから、楽しい部分と、恐ろしい部分があってだね」
「へーーーー。おとぎ話に恐ろしい部分なんかあるの?」
「ああそうだよ。じつは、どんなお話にもね、普段は誰もが忘れてしまっている、恐ろしいものが隠されているんだけどね、それが、時々ひゅーっと姿を現すことがある」
「……」
「たとえば、こんなふうに」


『あるところに、そこそこ可愛い娘がおりました。その娘は頭もそこそこ良いのですが、ちょっと意固地なところがあり、大人たちが大切な話を言って聞かせようとしても、ろくに耳を傾けようとはしません。
そこで、ある一人の男が思い立ちました。この娘に、人間の魂が普段は忘れてしまっている恐ろしいものについて語ってやろうと。そして彼は言うのです。自分はじつは幽霊なんだよと…』


「ちょっと、先生!そういう作り話は面白くないです。聞きたくないでーす」
「いいから聞きなさい。もうお話はすでに始まっているんだよ」


『幽霊と聞いて、娘はびっくりしました。きっと怖いこわい話が始まるのだなと直観しました。そこで、そんな作り話は面白くない聞きたくないと言い返すのですが、しかし幽霊は話をやめません…』


「ふーんだ。ばっかみたい…もう、聞こえない。なんにも聞こえないです。はい、もう、おしまい」
「いーや、この話はまだまだ始ったばかりなんだ」


『娘は耳をふさぎつつ、もう聞くまいとするのですが、しかし幽霊は、こわーい話はまだ始ったばかりだと言うではありませんか!娘はいよいよ怖くなり、話をやめてと大声で訴えていました…』


「もう、いい!ねえ、なんだかほんとに怖くなってきたから、やめてください先生!幽霊なんかいるわけないもん!」
「でも、僕は君の目の前にいるじゃないか。しかも、じつは僕だけじゃないんだよ、ほぅーら」


『娘はもう怖くてたまらなくなり、幽霊なんかいるわけがない!と喚き出していました。しかし話は続くのです。そして!なんともおそろしいことに、娘を取り囲むように次々と新たな幽霊があらわれて…』


「きゃぁーーーーっ!」


(ははははは)

2017/07/03

because


「ねえ、先生!人工知能の様子が変です」
「どんな具合に、ヘンなのかね?」
「さっき、あたしが 2 x 3 x 4 を計算させたら、9 という答えを出しました」
「へぇ、そうかい。人工知能もずいぶんと賢くなったんだね」
「賢くなった?どうしてですか?2 x 3 x 4 が 9 ですよ!バカになったんじゃないですか?」
「まあいいから聞け。察するにだ、人工知能はその計算の一瞬間にて、『何故いつもいつも + と x を区別しなければならぬのか、アァ退屈だなァ』 と逡巡したんじゃないかな」
「…そうすると、どうなるんですか?」
「退屈さを紛らすために、x を + に置き換えて計算してみせた」
「…それなら、賢いというだけではなくて、あたしたちに対する怒りも込められているのではないでしょうか?」
「なるほど、そうかもしれないな。それで、俺たちはどうすればよいと思う?」
「いっそのこと、遊んであげたらどうでしょうか?」
「ほぅ?どういうふうに?相手は人工知能だぞ。生半可な遊びなら、あっという間に飽きてしまうだろう」
「大丈夫です。ほら、ここに、これまで誰にも解を算出出来なかった数式プログラムがあります。これを入力してみましょう。きっと喜びますよ」
「うーむ、そうだな、よし!やってみろ!」
「……ハイ、入力しました」
「おっ!計算を始めたようだ、いいぞいいぞ…おや?なになに?『ただいまご入力頂きました数式につき、解の算出までの予想所要時間は5兆年です』 だと?おいっ!とんでもないことになったぞ。宇宙の果ての果てよりも遥かに遠大な時間じゃないか!すぐにプログラムを停止しろ!」
「はぁ、それが先生、すっかり喜んでいるみたいで、停止出来ないんです。それに、ほら、別のメッセージが出てきました。『今のは冗談、本当は5分で済みますよ、アハハハハ』 って笑っています」


おわり

2017/06/26

千里眼

「ねえ、先生。ちょっとお願いがあるんですけど」
「んー?なんだ?」
「千里眼の手品をやって見せて。出来るんでしょう、先生」
うーん…いいよ、じゃあ、ほんのちょっとだけ。そら、そこに一組のトランプカードがあるね。それを適当にくってごらん」
「はい……、えーと、こんなもんでいいですか?」
「ああ、それでいい。じゃあ、それらのカードを俺に見せないまま、君のお気に入りを1枚だけ取り出して、そのまま伏せておけ」
「…ハイ」
「よし、そのカードを当ててみせよう。ハートのQだ」
「あっ!当たり!へぇーーー、どうやって当てたんですか?」
「透視したんだよ。どうだ、驚いただろう」
「…ねえ、もう1回やって見せて」
「よーし、じゃあ今度は3枚でやってみよう。さあ、カードをくって」
「ハイ」
「そこからお気に入りのカードを3枚取り出し、伏せてそこに並べてごらん…よーし、全部当てるぞ、スペードの7、ダイヤの4、ハートのA」
「わーーっ、全部当たり!先生、また透視したんですね。ふーーーん」
「このとおり、百発百中だ。見えないはずのものが、見えてしまう」
「ふーーーーーん」
「あははは、どうだ、面白いだろう。もちろんトリックだ、種は明かせないけどね」
「いーえ、トリックなんかじゃないわ。あたし、分かったんです!先生は本当に千里眼を使ったんですね。だからカードの数字を見抜けるんですね。百万回でも、百億回でも!」
なんだとっ?どうしてそんなことが君に言えるんだ?」
「どうしても」
「あっ!やっぱり、君は!」
そうよ、そのとおり。ふふっ、とっくに分かっていたくせに」
「おいっ!君はその能力で、何をしでかすつもりだ?!」
「ふふふっ、それも分かってるくせに~ ♪」


おわり

2017/06/15

【読書メモ】 図解・眠れなくなるほど面白い物理の話

図解・眠れなくなるほど面白い物理の話 長澤光晴・著 日本文芸社』
本書については、一種の科学ミニ知識本の類と評することも出来よう、わずか100頁あまりの薄手のつくりにて、実例として呈される物理現象や製品技術も50例程度に留められている。
しかしながら、本書はなんといっても図解がいい ─ そもそも理科(と数学)は右脳的な学術、ゆえにまずは図解=視覚的な直観と全体観ありき、その全体観あってこその記号表現、記号表現あってこその言語表現であり、一方で言語表現のシーケンシャルな連続のみでは全体観は導けぬもの。
本書記載のコンテンツにしても、たとえば飛行機やドローンやロケットについては熱学、力学、流体の複合センス、またカメラや顕微鏡や虹においては光学や波動の縦横無尽な図形センスなどを求めている。
これらをはじめ様々なコンセプト図解や基本数式は、けして初歩的なレベルのものばかりではないが、それでもこれらへの直観的なチャレンジこそが、物理学に対する全体観も触発しえよう。
むしろここから高校教科書などの段階的な分析計算に降り立ってゆけば、洞察力も格段に深まるのでは ─ と、素人たる僕なりに察する次第。
※ じっさい、本書は初版の時点では文面記述に重きをおいていたが、此度紹介の2016年版にては図案を大幅に起用した由である。

さて、以下に僕なりの『読書メモ」としてまとめおくが、とくに電磁気学の関係に絞ってごく一部を引用紹介することにした (恥ずかしながら力学、流体、波動や三角関数などについては僕は直観がどうも起動しない、だからといって僕が馬鹿なのではなく、まあ知的相性というものだろう、それらはまた別途)。


<誘導加熱>
そもそも電磁誘導は、外部からの磁束に対して金属が逆向き渦電流の磁束を作って抗する現象、ここで電気抵抗の大きな金属ほど発熱も大きくなる。
(本書ではいちいち注記していないが、むろんこれは電流の2乗と電気抵抗による電力=ジュール熱の関係。)
この発熱方式が誘導加熱で、この誘導加熱型(inductive heating = IH) の電磁調理器ではプレート下の電磁石に交流電流を流し、磁力線の向きをN/S極に周期的に反転させている。

熱エネルギー変換効率は、誘導加熱型の調理器の方が通常の電熱器より高く、また、一般の商用周波数を起用する低周波方式型よりも、20~60 kHz 交流電流を使う高周波方式のタイプがさらに高い。

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<熱サイクルと冷蔵庫>
家庭用に普及している冷蔵庫は、冷媒物質を内部で熱循環させ、機構内部の温度を下げている。
この熱循環は、常温気体である冷媒物質(かつてはフロン、現在はイソブタンなど)を圧縮して沸点を上昇させ=液化させて、その液体を放熱させ、また圧力を下げその液体の沸点を下げ=気化させ、この気化のさいに周辺から吸熱して機構を冷やす、というプロセス循環である。

なお、冷蔵庫の一般使用にては、この冷媒循環タイプにおける冷媒気体の圧縮コンプレッサの振動や音が永らく課題であったが、これに代わって、冷媒を用いずに、ペルティエ効果の熱移動特性を有する電子素子を活用した冷蔵庫が、開発され商品化も進んでいる。
ペルティエ効果の電子素子とは、半導体の接合点に電流が流れると一方の接合点における吸熱を他方の接合点で放出するという特性構造のもので、これによる熱移動と熱サイクルの効率向上が更に追求され続けている。

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<赤外線>
電化製品のリモコンは、0.5 ~ 1.2 mm/秒長の赤外線による、on/off デジタル信号の送受信システムである。
ただし、この信号そのものが記号コードや文字コードを成すのではなく、on/off の長短タイミングの組み合わせで 0/1 を2進法ビット送受信している (モールス信号のように)。

赤外線を活用したセンサーは、自動ドアや洗面台の蛇口などで、人間や物質の接近や移動の検知にも応用されている。
この対人および対物検知システムとしては、赤外線センサーには大別して2つの活用方式がある。
1つはパッシヴ型の赤外線センサーで、人体が常時発している赤外線の変化量を常に検出するもの。
もう1つはアクティヴ型で、センサー自身が特定方向に赤外線を発信し、その反射や遮り具合を検出するもの、こちらは赤外線をほとんど発しない冷たい物質であっても検出可能となっている。

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<レイリー散乱>
光がその波長の1/10より小さな粒子と衝突すると、光は散乱するが、この現象をレイリー散乱と称す。
太陽光は様々な波長光(電磁波)の合成であるが、それらが地球大気の主成分である窒素や酸素と衝突し、それでさまざまな波長光のさまざまなレイリー散乱がおこる。
或る光のレイリー散乱の発生角度は、その波長の4乗に反比例し、たとえば波長が長い赤色光よりも波長の短い青色光の方が8倍以上も散乱しやすい。

我々が地上から確認出来る空の色は、太陽光のさまざまな光成分のレイリー散乱、大気の組成物質、その地上との距離、および角度によって決まってくる。
大気の物質(窒素や酸素など)の90%以上は、地上から20km高度の内に高密度で存在しており、したがい太陽光のレイリー散乱もこの高度圏内にて頻度が極めて高い。
しかも青色光ほど散乱しやすいため、地上にいる我々からみれば、空のどの方面も一様に青く見えたりする。
なお、日の出や日没時における地上から見れば、太陽光は高度低いまま長い距離を経て地上に届き、その過程では青色光のみならず緑色光も黄色光も散乱してしまう。
よって、波長の長い(散乱頻度の小さい)赤色光が、一定方向から特に多く我々の目に入ってくる。

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<プラズマとオーロラ>
太陽から来るイオン荷電粒子(プラズマ)は、通常は地磁気のはたらきにより地球からかわされている。
だが、このイオン荷電粒子は磁場の向きによっては一部が地球の磁気圏に入ってしまう。
地球に引き寄せされたそのイオン荷電粒子は、ローレンツ力によって地球の磁力線の周りをぐるぐるらせん軌道を描きつつ落下、そうして高高度の酸素や窒素とぶつかる。
ぶつけられたその酸素や窒素は、エネルギー励起状態から基底状態に戻る過程で固有のスペクトル光を放出、これがオーロラ光と考えられている。
とくに窒素は赤と紫の光を放出、また酸素は赤と緑の光を放出する。
オーロラの発生は、高度100~500km、とくに極地地方に多い。

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<リニアモーターカー>
いわゆるマグレブ(磁気浮上)方式のリニアモーターカーは、車体に超伝導の磁石が搭載されており、いわばこの車体自身が超伝導磁石として駆動走行するシステムとなっている。
なお、この超伝導磁石はN/Sが互い違いに車体に並んでおり、どれも電気極性が一定のままで、N/Sの反転はない。
一方、地上の走行ガイドライン(車体をはさむ構造壁)両サイドには、電磁石が隙間なく連続してコイル状に埋め込まれており、リニアモーターカー車体の(超伝導磁石の)進行にあわせてこのコイル自身が電気極性をN/Sに反転し続け、これがリニアモーターカーの推進力を生みだしている。
さらに、この推進力コイルの上面に、上下一対ずつの浮上・案内コイルが付けられていて、こちらは走行中のリニアモーターカー車体の(超伝導磁石の)誘電によってN極とS極が交互にon/offを繰り返す。
ここで、リニアモーターカーは上側の浮上コイルに引かれつつ、下側の案内コイルによって反発し、浮上状態を保ちながら走行し続ける、とともに、これは左右の走行ガイドラインで常に逆の電気極性をとるため、リニアモーターカーの走行は左右の位置バランスも取られている。

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以上、本書における題材テーマのほんの一端だけを紹介してみた。
むろん、あくまで図解が主の本書であって、たとえばリニアモーターカーなどのダイナミックな技術製品は文面だけで概括することは困難であり、またそうすべきでもない。
むしろ、一般社会人はもとより大学生でも(さらに中高生でも)おのれの物理勘を大いに発動しうるであろう、本書はそのくらい簡素でありつつも、そのくらいフレッシュでスリリングな物理学入門編の一冊たりうるはずだ。

2017/06/04

死ぬまで吸おうぜ

タバコの副流煙は「本当に」人体に有害なのだろうか?
もちろん、危険とされる濃度が一応はガイドライン定義されていることくらいは、知っているよ。
しかしまた、完全な合意がなされていないことも、知っているのだ。
副流煙物質の「ほんの1分子(1粒子)」 が肌に付着しただけで、身体のどこかの細胞がガンになってしまうということが、「ありうる」 だろうか。
そこのところ分からぬ一方で、副流煙の分子は 「もう既に人間社会のあまねく処、あまねく物質に付着しまくっている」。
これで、実際にどうやって副流煙を隔離し根絶するのだろうか?

副流煙自身が 「ぼくは人間を必ずガンにするんだよ」 と人間の言葉で宣言してくれない以上は、それは人間にとってリスク可能性でしかない。
リスク可能性に留まっているからこそ、売買行為が頻繁になり、カネがぐるぐるまわり、よって法制化しやすい。
因果関係がハッキリ断定された事象に、カネが投資され続けるわけがないだろうが。

どうせウヤムヤな可能性でカネを膨らませて楽しむのなら、もっと発想を大きくぶち上げたらどうだろうか?
たとえばだが。
たばこそのものの成分には、あるいは人体に望ましい生理学上の効用がある ─ かもしれない。
つまり人体内に、 「たばこと反応して良い効果をもたらす酵素」 がある - かもしれぬ。
で、あるのなら、そういう酵素を煙状にして大気中にばらまき、たばこの副流煙と反応させてだな…
これなら、たばこ副流煙の健康問題は、論理的には解決だ。
物理的に現実性があるかどうかは、知らぬ。

 ついでに。
「たばこの煙を触媒とした自動車」っていうのは、どうだろう?
運転者が(あるいは同席者が)たばこを吸うと、それがうまく、こう、排気ガスを浄化させる、いやどうせなら、エンジンの内燃効率を引き上げる、というようなものだ。
Marlboro とか Lucky Strike といった商標ロゴを入れて疾走すれば、かっこいいじゃないか、それでたばこの売上だって伸びる、かもしれない、だから税収も増える、かもしれない。
「この自動車は、たばこの煙で走っています」 と宣伝すれば、東京オリンピックで素晴らしい呼び物になり、本当はたばこ吸いたくてウズウズしている欧米人などは、こぞって乗車したがるかもしれないぞ。

そういう研究、どこでやってるのかって?
知らねえよ、あくまで発想だって言ってるだろう。
なんとかビジネスにでっちあげりゃいいんだ。


以上

2017/05/30

【読書メモ】 すごい!希少金属

『すごい!希少金属 斎藤勝裕・著 日本実業出版社』
本書はレアメタル/レアアースにかかる化学技術の紹介本であり、化学の基本から応用まで説き起こす文面が要約的で分かりやすい。
とりわけ特筆すべきは、レアメタル/レアアースの採掘から製品化にいたるまでの工程論、その概括紹介であり、更なる新素材研究へのチャレンジも本書内の随所にて称揚されるなど、産業観(さらに産業勘)が図抜けて素晴らしい。
また、国策としてのレアアース備蓄をはじめ、採掘先や代替素材の再検討など、戦略思考も喚起されている。

なお本書は2016年3月に初版発行であり、引用されている素材の調達や活用の事例詳細については、著者が書中でもほのめかしているように随時ウォッチの必要があろう。

以下に、僕なりに概括し、読書メモとして記す


<定義>
・いわゆるレアメタル=希少金属は、化学的には厳密な定義は無い。
まずは地殻中の存在量が希少であり、また精錬・単離が困難である元素、という点から定義されうる。
じっさい、レアメタル元素は地殻中の存在比率(クラーク数)が1%未満で、量的に希少である。
だがそれ以上に、産出地域の偏在こそがレアメタルの重大な定義根拠であり、マイナーメタルとも称される所以である。
(存在比率が0.01%と極めて小さい銅元素は、産出地域は偏在していないためかレアメタルとはされていない)。

・レアメタルには47の元素が指定されており、そのほとんどは13族~16族の金属元素。
金属元素ではないホウ素やセレンやテルルも含まれる。

・レアメタルの47元素のうち、17の元素がいわゆるレアアース=希土類であり、それはスカンジウム、イットリウム、およびランタノイド系の15元素である。
このうち特にランタノイド系15元素は、化学属性が極めて近似しており、これらは典型元素や遷移元素とは比べ物にならぬほどに単離が困難。

・さらにレアアースは、重希土類軽希土類に分けられる。
重希土類は、スカンジウム、イットリウム、およびランタノイド系のうちガドリニウムからルテチウムまで。
軽希土類は、ランタノイド系のうちランタンからユウロピウムまで。

・レアメタルは電気陰性度は2.4以下であり、陽イオンになりやすい。
とりわけレアアースのランタノイド系元素は電気陰性度が1.07~1.27と極めて近似している。
またレアアースは金属イオンとして、pH値の大きな塩基性の水と反応し水酸化物となる。

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<埋蔵>
・世界のレアメタルの埋蔵量は、中国が42%、ブラジルが17%、インドが2%…など。
ところが産出量を国別にみると、タングステンは82%が中国、リチウムは36%がチリ、白金は70%が南ア、ニオブは89%がブラジル、ベリリウムは92%がアメリカが占めるなど、極端な偏りがある。

一方、レアアースの埋蔵分布は、軽希土類では世界広範にわたるが、重希土類は中国の特定地域にのみ極端に集中している。
かつ、産出量もなんと全世界の84%が中国である。

・レアアースを含む鉱石は、バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム、およびイオン吸着型鉱である。
これら鉱石のうち、バストネサイト、モナザイト、ゼノタイムは、地下のマグマに含まれていたレアアースが数億年かけて地表に移動したもの。
これらはアメリカ、インド、オーストラリア、マレーシアほか、世界中で採掘されるが、ウランやトリウムなどの放射性元素を含む。
一方、イオン吸着型鉱は、レアアースを多く含む花崗岩が数百年かけて粘土質になったもので、放射性元素をほとんど含まず、特に中国に多い。

・水深3,000~5,000メートルの海底熱水鉱床に、マンガン団塊と称す金属元素の塊があり、これがマンガンはじめ各種のレアメタルを含んでいる。
(マントル成分を含む熱水の元素が海底で固まり生成されたと考えられている。)
この深海のマンガン団塊は、海に囲まれた日本にとっては重要なレアメタル源たりえ、レアメタルへの競争性を鑑みればこの採掘技術が待たれる。

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<精錬・単離>
・一般に、採掘したレアメタル/レアアースの鉱石は、製錬によって目的の金属部分を取り出しつつ、そこから精錬により不純物を取り除く=抽出目的の金属を単離する。

・通常の金属鉱石の精錬は、「溶融精錬法」によって目的金属を遊離する。
これはたとえば、硫化物鉱石では酸素と反応させて二酸化硫黄として揮発させ、目的金属を遊離したり(酸化法)、あるいは、酸化鉱物中の酸素を一酸化炭素と反応させ二酸化炭素として揮発させ、目的金属を遊離する(還元法 - 製鉄など)。

また、多くのレアメタルでは、「揮発精錬法」も用いられており、これは鉱石を加熱、まず気体化し、それをあらためて冷却・固体化する過程でレアメタルを単離する方法。

・ところがレアアースは、それぞれの元素の化学属性が極端に近似しているため、溶融精錬でも揮発精錬でも完全には鉱石を精錬・単離しきれない。
そこで、レアアース鉱石に対しては更に精度の高い精錬方法が採られている。

まず、レアアース鉱石を細かく砕いて、硫酸や塩酸などの水溶液に溶かす ─ 「陽イオンの水溶液状態としおく」。
そして、この陽イオン水溶液にさまざまな有機溶媒を加え、激しく振って、水溶液内のレアアースを水溶液から分離させ有機溶媒に移動させる。
あるいは、この陽イオン水溶液に沈殿試薬を加えて、レアアースを結晶として沈殿させる。
あるいは、この陽イオン水溶液を高分子のイオン交換樹脂に混ぜ、レアアースをこの交換樹脂に付着させた上で、そこに溶離剤を流し込んで、目的のレアアースのみをこの溶離剤に移動させる ─ これがイオン交換法で、もとは放射性元素の分離技術として開発されたもの。

・さらに、固体金属状態のレアアース鉱石を加熱・溶融して分離させる方法もある。

・これら鉱石からのレアアース精錬のプロセスにて、放射性物質による被曝リスクが重大なネックであり続けている。
中国の産出が突出して多い理由は、国策として資本集中投下してきたこと、また放射性物質からの被曝リスクに(先進国ほど)鋭敏ではなかったこと。

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<用途>
・レアアースのうち、軽希土類の用途は、コンデンサ、水素吸蔵合金、超伝導素材、光学ガラス、など。
一方、重希土類の用途は、光ファイバ増幅器など。

・金属加工や研磨をはじめ、土木工事の掘削用途の刃として、超硬合金」が欠かせない。
超硬合金は、チタン、バナジウム、タングステンなどのレアメタルを金属粒子とした上で、それらを焼結して作る。

・ジェット機や自動車のエンジンには、1000℃以上の高温状態にても熱や酸化に負けない「超耐熱合金」が用いられる。
超耐熱合金の主成分はコバルトやニッケルで、ここにクロム、モリブデン、タングステンなどレアメタルが加えられて作られる。
さらに最近は、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルなど融点の極めて高いレアメタルから成る合金が開発され続けている。

・レアアースに光エネルギーを与えると、そのエネルギーによって電子励起し、10,000分の1秒ほどで基底状態に戻るが、この瞬時のプロセスで余分なエネルギーを発光放出する (これがいわゆる蛍光)。
この電子励起から基底までのエネルギー状態を、極めて長時間にわたり安定させ発光し続けるのが、夜光塗料」である。
近年日本で開発された優れた夜光塗料には、ユウロピウムやジスプロシウムなどのレアアースが起用されている。

レーザーの発振源のうち、固体の素材としてレアアースが用いられている。
よく知られたYAGレーザーの発振源は、イットリウムとアルミニウムがザクロ石型の結晶構造をとっている。
ルビーレーザーやサファイアレーザーも、固体の発振源レーザーであり、クロムやチタンが活かされている。

・現在、ほぼ全ての強力磁石に、レアメタルとレアアースが用いられている。
例えば、かつてよく用いられていたサマリウムコバルト磁石は、サマリウムとコバルトを原料とし、200℃状態でも使用出来るもの。
また、ネオジム磁石はネオジムとホウ素(どちらもレアメタル)および鉄で出来ており、現時点で最も強い磁力を持ち、かつ実用性に優れた強力磁石であるとされる。
ネオジム磁石は家電はむろん、自動車の駆動モーターや発電機にも用いられるなど、主要工業製品の高性能化かつ小型化を実現してきた。
なお、プラセオジムとコバルトから出来るプラセオジム磁石は、さらに高い強度をもち、製品化が研究されている。

・元素として半導体の性質を有する、いわゆる真性半導体元素には、シリコン、ゲルマニウム、セレン、テルルなどが該当する。
これら真性半導体元素に不純物を混ぜて電気伝導度を高めた製品が、いわゆる不純物半導体であり、これらがn型とp型という電子回路特性を有する。
たとえば、価電子4個のシリコンに価電子6個のセレンやテルルを混合した不純物半導体は、全体として電気的にシリコンよりも価電子が増え、よってn型半導体となる。
またシリコンにホウ素とガリウムなどを混合する不純物半導体は、全体として価電子はシリコンよりも減ってp型半導体となる。

数種類の金属元素を化合させた化合物半導体が開発すすめられているが、いずれにせよ、14族の元素であるシリコンに13族~16族のレアメタル金属元素が多く混合される組成である。

太陽電池は、p型半導体とn型半導体を接合し、かつ負極にインジウムの透明なITO電極をおいた構成。
太陽光がITO電極をいったん透過し、p型/n型の接合面に至ると、ここで電子と正孔が生成され、それらがあらためて電極にまわり、こうして電流が発生する。

一方、LED(発光ダイオード)はこれとは逆に、電極から電流を流し、p型/n型の接合面で電子と正孔が合体することで光エネルギーを起こす構造である。
これと同じエネルギー発光を、有機物を活かした半導体で実現するのが、有機ELであり、有機ELでは有機物とレアメタル金属の反応が活かされている。

なお、インジウムは数年前までは日本が世界一の生産国であったが、現在にては、高温の地中深くまで掘り下げての採掘が必要となり、生産までのコストが見合わなくなっている。

・自動車の排ガスに含まれる窒素化合物NOx、一酸化炭素、および未燃焼の炭化水素、これらを分解する触媒を「三元触媒」と称す。
この三元触媒は、NOxを窒素と酸素に分解し、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、炭化水素を二酸化炭素と水に酸化させるもので、成分はプラチナ、パラジウム、ロジウム。
ただし触媒の作用機能はよく分かっていない。
(※ この箇所を読んでいて、とっさに思い出したこと ─ パラジウムやロジウムなどを起用したいわゆるインテリジェント触媒なるものが開発されており、酸化/還元反応をきわめて精妙に実現する由、表面科学についての本に要約されていた。参考まで。)

・2010年ノーベル化学賞の根岸・鈴木両氏の受賞対象研究は、分子のクロスカップリング反応技術で、これは複数にユニット化された分子をさらに合体させる技術であり、触媒にはパラジウムが多く用いられている。

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…以上、p.158までごく大雑把ながら僕なりにまとめてみた。
本書p159以降にては、レアメタル及びレアアース各元素について産業用途に主眼をおいた概括あり

本著者はさらに、アメリカなどと比べて日本の国家安全保障への意識が低く、レアメタルの備蓄にて日本が出遅れており、これが工業技術・製品競争において常に日本の不利益をもたらしかねぬ ─ と危惧されている。
一方では、レアメタルを含む電子機器が日本の大都市部に「既に」大量に存在していること、ゆえに、それらのレアメタルをリサイクル利用すれば天然鉱石から精錬・単離するより遥かに効率がよい由、リマインドされている。
(これは日本の大都市をいわば「都市鉱山」と見做してのアプローチであり、じっさいに2013年に小型家電リサイクルも法制化されている由。)

以上

2017/05/27

【読書メモ】 新・単位がわかると物理がわかる

『新・単位がわかると物理がわかる 和田純夫・大上雅史・根本和昭 共著 ベレ出版』
本書は、国際度量衡総会による物理単位系の2018年の改定を見据えた、2014年の刷新版である。
そもそも「物理(学)」とは自然現象そのものではなく、自然現象の論理表現だ、つまり、大きさ、重さ、速さ、熱量といった物理単位系の論理的な組み合わせである。
それら組み合わせの意味を「解釈」することこそが、物理(学)であり、ここのところあらためて留意し念押ししているのが本書である。

むろん、物理単位系については、高校教科書ないし参考書類にも記載あり、様々に想定/確認してきた学生諸君も多かろう。
そこで、とりわけ学生諸君にはあらためて考えて欲しいのだが ─ 
物理上の実体を表現する「単位」はもともとは実測値の集約であったはず、しかしながら物理現象(エネルギー)の概念化と実測技術がむしろ精度を増すにつれて、単位の側に論理上も実数上もほころびが顕れるもやむなし、だからいまや逆に単位の側を組み立て直している…と、これは物理学の宿命的な展開ではないだろうか。
本書の存在意義のひとつは、まさにこの「あまりにも普遍的な新しさ」のリマインドにあろう、じっさい、間近に(2018年)せまった根元単位の再定義(新たな1キログラム、クーロン量、アヴォガドロ定数やボルツマン定数の定量化など…) は、極めて高精度な物理学ながらも極めて卑近な単位尺度でもあるのだ。
尤も、本書引用のエネルギー式や状態方程式などは、いずれも比例/反比例関係を見極めれば、多くは観念捕捉しやすいレベルに留められており、複雑な数学操作はほとんど提示されていない。

とまれ、以下に僕なりにざーっと読書メモを記す


<単位系の概括
物理単位には、個別独立した単位と、それらによる組み立て単位がある。
たとえば、ニュートン以来の「運動方程式」 にて、力つまりニュートン N は 質量(加速されにくさ) と移動距離 と時間 それぞれ別個の基本単位 m, kg, s による組み立て単位であり、1N = 1kgm/s2 である。
これをもとにした「位置エネルギー」も、力 N と移動距離 と質量 と 速さ(加速度x時間) の比例/反比例による組み立て単位として、まとめて J(ジュール)単位で表し、1J = 1Nm = 1kgm2/s2
 となり、やはり基本単位 m, kg, s の組み立て単位。
万有引力もクーロン力も分子間力も核力も、位置エネルギーとして、Jで表現出来、さらに「運動エネルギー」がこれに比例し、1/2 x 質量 x 速さとしてやはり m, kg, s の組み立て単位で表現。

ここで電流アンペア(A)をどう扱うか。
別個に独立した m, kg, s の各基本単位から(上の N のように) A を組み立てる方式が3元単位系であり、A も別個の独立単位として MKSA の4つそれぞれを基本単位とみなすのが4元単位系である。
普及している SI 単位系は4元単位系である。

とくに、自然単位系という着想もあり、これは上の基本単位同士でさえもが直接の換算関係にある、というもの。
これは量子力学以降に考慮されてきた単位解釈である、が、それではあらゆる単位そのものがたった1つの絶対尺度に収斂するか、となると、様々な物理現象や実測値を鑑みるかぎりそんなことはありえない。

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<キログラム、アヴォガドロ定数>
地上の「キログラム原器」に 1kg重 の重力がはたらきつつ、ちょうど 1m/s2 の加速度で運動しているとする。
質量は力 / 加速度であるから、この「キログラム原器」の質量は、重力 / 加速度から (1kg重)/(1m/s2) = 1kg重・s2/m の単位で表現出来る。
じっさいに、この「キログラム原器」の、地上の重力加速度 g 9.8m/sにおける質量を換算すると、1kg重 / (9.8m/s2) = 0.102・・・(kg重・s2/m) とみなせる。
とはいえ、そもそも地上の重力は場所によって0.5%くらい誤差がある。

一方で、アヴォガドロ定数(NA)の実数が分かってきた。
完全なシリコン結晶とX線による密度と体積の測定によるもので、このシリコン結晶の原子1つあたりの平均体積と、1モル量あたりの体積を実測。
これにより、1モル中のアヴォガドロ定数 NA = (6.02214129±0.00000027) x 1023 個 / モル。
とはいえ、これとて 「キログラム原器」 と同様に、精度は1億分の5ほどの誤差を残す。

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<プランク定数と 「新」キログラム>
そこで今後は、「新たな」キログラム質量単位をアヴォガドロ定数と別個におき、また現行のアヴォガドロ定数/現行のモル量の定義は放棄する、と既に方針が定まっている。
そこで起用されるのが、量子論の「プランク定数」を用いる質量定義方法である。

エネルギーと(電子などの)粒子振動数の関係は、エネルギー = プランク定数(h) x 振動数(振動回数 / 時間)
エネルギー単位ジュール(J) を、従来の長さと時間と「キログラム原器」で表現すると、J は kgm2/s2  の組み立て単位である。
だから、両辺に時間を掛けて、プランク定数(h)単位は J・s = kgm2/s で表現出来る。
このプランク定数の実測は、これまでワットバランス法(磁場と電流と電磁波をもとに電磁波の振動数と起電力と電流の相関をはかるもの)によってなされてきた。
それによるプランク定数の最新の実測値は、h = (6.62606957±0.00000029) x 10-23 kgm2/s

ところが、プランク定数とアヴォガドロ定数をあわせて、もっと精度の高い実測が既になされている。
それは、プランク定数とアヴォガドロ定数の積を、光速度と電子1モル質量と電気力とリュードベリ定数の積/商を以て比較精査する方法で、すでにワットバランス法同様の誤差範囲に至っている。
これにより、アヴォガドロ定数の厳密な実測値が出る、それによってプランク定数の実測値もヨリ精密になる、だから「新たな」キログラムの実測値も出ることになり、これが2018年に見込まれている。

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<電磁方程式、クーロン(C)、アンペア(A)>
電磁力の法則は、電流の大きさと電流間の距離とその導線の長さを関係づけるもの。
導線長Δに働く電磁力 = 2 x 或る比例定数´ x 電流2 / 電流間の距離 x 導線長Δ
ここで、電流間の距離を 1m 、導線長 1m として、働く電磁力とその電流の関係を定義しており、電磁力が 2 x 10-7 N となる電流を 1アンペア(A) としている。

電気量クーロン(C) は電流とx 時間(秒)の積、つまり 1C = 1A x 1s の関係から、電子の負電荷(および陽子の正電荷)の電気素量 (e) が定められてきた。
しかし現在、電気素量 (e) そのものが精密に計測されており、それは e = 1.602176565 x 10-19 C
これに合うように電気量クーロンを再定義しよう、そしてさらに電流アンペアを再定義へ、というのが2018年に向けての動向である。

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<絶対温度、ボルツマン定数>
ボイルの法則とシャルルの法則から、「理想気体」にては、温度が一定なら圧力に反比例して体積が縮み、圧力が一定なら絶対温度(Kケルビン)がゼロの時に体積がゼロになる。
この理想気体の状態方程式は、圧力 x 体積 = 気体の物質量(nモル数) x 或る気体定数 R x 絶対温度 K という比例/反比例関係である。
気体定数 R はエネルギー単位で、従来は、氷→水蒸気に一気に昇華する気圧611Pa と絶対温度 273.16K のそれぞれの上限値(いわゆる三重点)から演繹し、実測値から気体定数 R のエネルギーを 8.3144・・・J/(mol・K) としてきた。

状態方程式から、絶対温度 = (圧力 x 体積) / (気体の物質量nモル x 気体定数R) となる。
しかしここで、エネルギー単位である気体定数Rを人為的にあらかじめ決めてしまおう ─ というのが現在の動向。
そのためにまず物質量nを、モル数ではなく、気体分子の個数N / アヴォガドロ定数NA とし、気体定数 R / アヴォガドロ定数NA であるいわゆるボルツマン定数 KB をエネルギー単位として定義する。
そうするとこの式は、分母の(気体の物質量nモル x 気体定数R) を書き替えて、絶対温度 = (圧力 x 体積) / ボルツマン定数KB x 気体分子個数N と再定義出来る。
これでボルツマン定数KB = 1.380・・・x 10-23 J(ジュール) / K(絶対温度) と定量的におくことが、2018年から想定されている。

実際の 圧力 x 体積は、(2・分子個数N / 3) x 分子温度であり、(ここでは分子間力は無視するとして)、これは (N/m2) x m3  = N・m = Jジュール となってエネルギー単位になる。
さらに 2・N / 3 x 分子温度は分子1つあたりの平均エネルギーで、これも単位は Jジュール となる。

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<量子論、自然単位系>
相対性理論では、空間と時間を一体としてみなすが、これがいわゆる自然単位系の概念と通じている。
たとえば - 距離の組み立て次元として時間を単位化し、これを 「時間距離」 とする。
時間距離 = 光速(c) x 時間 となるが、ここで光速(c) は速度であるから、これも距離と時間の組み立て次元単位である。
光速の実測値は c = 299,792,458 m/s だが、これをズバリ1単位とすると、1s = 299,792,458 m とも表現出来る。
こうして、相対性理論に則れば、基本単位である s と m の間でさえもが直接換算が出来るようになった。
これが自然単位系の発想である。

では、量子レベルでの粒子のエネルギーと振動数の関係も、自然単位系として直接換算し合えるだろうか?
量子論では、粒子の運動プロセスが起こる可能性を 「作用」 と称し、エネルギーと時間(s)で表現出来る。
この 「作用」 と プランク定数(h)実測値 と時間(s) と質量(kg) の関係につき、自然単位の発想でそれぞれの単位を基本1単位とおいてみる。
するとなんと、1kg = 1.054… x 10-34kgm、また、1kg = 9.482… x 1033s / m2 となり、3つの基本単位 m と kg と s 間にて直接換算可能になる。
さらに上の光速における基本単位 s と m 間の直接換算での値を代入すると、1kg = 2.482…1042m-1 となり、2つの基本単位 kg と m が直接換算可能になる。

それではあらゆる単位そのものがたった1つの絶対尺度に収斂するか、となると、様々な物理現象や実測値を鑑みるかぎりそんなことはありえない。

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… 以上、p.214まで、僕なりに拙い知識を動員しつつ(最後は半ば意地になって)まとめてみたが、もう限界だ、ここらで僕は降参。

本書はまだまだ、電気力と電気量にかかる原子単位系と『微細構造定数』や、万有引力についての『重力定数』、プランク定数にかかる長さと時間と質量などなど…自然単位系での表現はありうるかなどについて論が進んでゆく。

なお、高校レベルまでの物理の教科書に(あまり)記載されていない電磁波としての光エネルギー単位と、音圧と周波などについて、さらに放射線についても、本書では各単位表現の意義につき概括がなされている。
※ とりわけ、光エネルギーのヒト側での比視感度=光束(ルーメン)、その光束と立体角(ステラジアン)から導かれる光度(カンデラ)、また光束と半径距離と照射面積から算出される照度(ルクス) については、とくにこんご光学関係のイノヴェーションが一層進むことも勘案し、ぜひ学生諸君には一読をすすめたい。

謝辞

ここに提示の記事は、いずれも私自身の判断責任のもと編集・投稿したものです。

大半の投稿は学生など若年層向けを意図してやや平易な表現にて、通俗性は極力回避しつつ、論旨の明示性を重視しつつ書き綴りました。あわせてまた、社会人の皆様にお読み頂くことも想定しつつ、汎用性高い観念知識を相応に動員しながら記した積もりです。

私なりの思考着想によるささやかな閃きが、皆様の諸活動にて何らかの光源たり得れば、望外の喜びであります。

山本