2018/05/19

【読書メモ】身のまわりの すごい技術 大百科

『身のまわりのすごい技術大百科 涌井良幸/貞美・著 
(株)KADOKAWA刊』
本書は様々な工業製品技術の導入案内本。
挙げられたテーマはじつに100件近くにものぼり、まこと分厚いヴォリューム感 ─ とはいえ、コンテンツの多くは高校理科をやや超えた物理/化学理論に抑えられ、それぞれ最先端技術や応用事例をささやかに留め置いた、コンパクトリファレンスの体裁である。
大百科と冠されつつも意外なほどの廉価版(400頁近くの構成ながら1300円は安い!)、また、黄色い装丁は爽やかな軽量感バツグンだ、理系/文系問わず特に学生諸君の基礎教養の増強に是非ともお薦めの一冊。

尤も、本書は明朗な文面ゆえにこそ、読者としてはむしろ概説図を注視しつつ理論エッセンスの分析と理解を進めたいところである。
その良い例が、本書巻頭部にて紹介される「(三菱電機が実用化の)変速エスカレーター」である。
ひとつひとつの踏段がどれも同じサイズ、同じ角度で連結し、同じ補助レールと同期しつつ同じ速度で連動している「はず」なのに、なぜ乗/降の箇所のみ踏段の搬送速度が変わるのか ─ これは「踏段同士をつなぐ金具の角度'のみ'が可変する」という機構上のイノヴェーションによるのだが、本箇所につき、文面のみで完全に了察出来る読者はおそらく絶無だろう。
(※ なお類書としては、別著者/出版社による「眠れなくなるほど面白い図解物理の本」…などなどが挙げられよう。)

さてそれでは、本書のうちから、とりわけ僕なりの嗜好に則って電気まわりについてのコンテンツを幾つか概略し、以下に列記する


<電力量計>
家庭などの積算電力量計にて回転しているのはアルミの円盤で、回転させている力は装置内で起こっているいわゆる「アラゴの円盤」と呼ばれる電磁誘導現象の応用である。
アラゴの円盤とは、上から吊るされた金属円盤が下部の磁石の回転につられて自身も磁力を増やし、反発減殺するように自らが渦状の電流を発生させて電磁石となり(つまり電磁誘導を起こし)回転するというもの。

実際の電力量計には回転する磁石は無いが、アルミの円盤を上下からコイルが挟み、これらコイルのうち上側は電源側と並列につながる電圧コイル、下側は屋内配線と直列につながる電流コイルで、電流と電圧がほぼ1/4周期ずれることを利用して、アラゴの円盤の回転磁石と同様に電磁誘導を生み出している。
ここで、下側の電流コイルこそが、屋内での実際の電気使用量に応じて電流が変わり電磁石効果を変えて、アルミの円盤を回転させているのである。
かつ、このアルミ円盤は、勝手に空転しないように永久磁石によっても挟まれており(制動磁石と称される)、この仕組みもアラゴの円盤の電磁誘導現象を活かしたものである。


<体脂肪計>
体脂肪計は、身体内に微量な電流を通して電気抵抗を測定する、いわゆる生体インピーダンス測定法(BIA法)によって、体脂肪率を表示している。
筋肉は水分が多いため電気抵抗が小さいが、脂肪は電気抵抗が大きく、この抵抗値の差を元にして体脂肪率を表現している。
もっとも、電気抵抗値と体脂肪率の相関は、あくまで累積データに則って公式化(仮算)されているに過ぎず、絶対指標があるわけではない。
なお、生体の電気抵抗は就寝中には概して高く、活動中には低いし、もちろん水分摂取量によっても変動する。


<電子レンジ・IH調理器>
電子レンジ(microwave oven)は、マグネトロンによって波長12cm程度のマイクロ波を発生させ、食品に照射する仕組み。
このマイクロ波が食品内の水分子を共鳴回転させ、その水分子同士の摩擦熱を以て、食品加熱の機能としている。
IH調理器(induction heating)は、電磁誘導と電流熱を活用したもので、鍋の下に敷かれたプレート内コイルに20~30キロヘルツの高周波電流を通す→高周波変動の磁力を発生させると、この磁力が鍋の誘導電流を生み出し、この電流が鍋自身の鉄分子と衝突して発熱する。


<光ディスク>
CDもDVDもBlu-rayも、データがディスクのピット(くぼみ)に刻まれており、ピットにレーザー光を当てたさいの反射の差異を検知し、それらを(数理的に)映像と音声の情報として解釈する仕組み。
CDはピットが粗いので赤色レーザー(波長780nm)によって反射を識別出来るが、Blu-rayはピットが極めて細かいため青紫レーザー(波長405nm)でなければ反射を識別出来ない。
また、CDのピット記録層つまり読み取り面はディスクの奥中に在るが、Blu-rayではディスクのギリギリ表面部にあり、これはディスクがちょっとでも反ってしまったさいのピット検知誤差を最小限に抑えるため (ピットがディスクの奥中にあると検知誤差も大きくなる。)


<フラッシュメモリ>
フラッシュメモリのセル構造はCMOS型であり、他の多くのLSI素子と同様、1セルずつがソース、ドレイン、ゲートの3電極から成っている。
ソース/ドレイン/ゲートの各電極に電圧がかかる/かからない、つまり電子が在る/無いによって、ビット0/1を読んだり書いたり、と、この基本構造は通常のLSIと変わらない。
ただし、フラッシュメモリにてはゲート電極がいわゆる「浮遊ゲート」構造となっており、この浮遊ゲート極に電圧をかけると「電子を一時的に貯め込む」ことが出来る。
この浮遊ゲート極の電子の活用によって、高速演算処理およびデータ不揮発性において、通常のLSI素子やデータ保存媒体を超えた媒体と成りえている。
※ ここのところ、本書p.105における電極フロー図を是非参照されたし。なおフラッシュメモリの発明者は東芝の舛岡富士男である。


<デジカメ>
デジカメの撮像素子は、格子状に微細に分けられた大量の画素から成り、各画素の遮光マスク上にてマイクロレンズとカラーフィルターがあり、それぞれ光センサー(フォトダイオード)が対応している。
それぞれの画素にて、カラーフィルターが受光を三原色に分解し、光センサーが受光を電子に量的変換。
これらの画素の電子量を電気信号(データ)化するにあたり、方式が2つあり、1つはCCD型の方式で、装備されている全ての画素における電子量を順次に確認しつつ電気信号化するもの、もう1つはCMOS型で、電子の有る画素のみその電子量を電気信号化するもの。
電気信号化の過程ではCCD型の方が誤動作はヨリ少ないが、機構上はCMOS型の方が単純であるため、現在生産のデジカメの9割以上はCMOS型のものである。


<クォーツ時計>
クォーツつまり水晶は、力を加えると電圧を生じ(圧電効果・ピエゾ効果)、また逆に電圧を加えると固有のリズムで振動する性質を有する。
じっさい、水晶の細片に交流電圧を加えると1秒間に約3万回の固有リズムで振動するので、「水晶振動子」を用いてこの振動を1ヘルツの周波数の電気信号に変換し、これを受けて超小型のステッピングモーターが1ヘルツ周期で回転、これが時計の機能を為す。
なお「水晶振動子」は現代の電子機器において不可欠であり、コンピュータや動作検知センサーにて重要なデバイスである。
※ 因みに、セシウム原子時計はクォーツ時計よりも遥かに正確で、誤差は3000万年で1秒以下!であり、標準時の電波時計にて活用されている。

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以上、ほんのごく僅かながら、僕なりに概略してみた。

ともかく本書は技術/工業化の実例紹介がふんだん、表面科学など理論性の高い学術から日用品レベルでの軽妙な種明かしまで、次から次へと、出てくる出てくる…いつでもどこでもそして誰もが小理屈抜きに楽しめる理科の宝箱。